七の輪 3

 揺れ崩れる地下の通路を、再び鼠の姿で走る。やっと見つけた上り階段を登りきると、胸壁の向こうに、合流する河の暗い流れが見えた。ここは、三角形をした皇都の頂点の一つ、見張り塔だ。


 くるりと、振り向く。遠くに見える皇城の上で暴れる三つ頭の竜の巨大な影と、見張り塔の方へと逃げ来る人々の小さな蠢きが、人型に戻ったライの瞳にはっきりと、映った。……アールを、止めなければ。


 翼を、背中に想う。作った翼で皇城の方へと飛び上がると、ライは竜の頭がこちらを向く前に翼を保ったまま巨人の姿を取り、ライの方へと三つの頭を向けたその竜の巨体を皇城裏の荒野へと叩き落とした。


 地面に叩きつけられたにもかかわらず、何ともないというように、竜は一瞬で地面を蹴って巨人姿のライへと襲いかかる。その鋭い鉤爪で腹を裂かれるのを感じながら、ライは左腕だけで竜の頭を三つまとめて抱き締め、そして右手に掴んだ父の剣で竜の首の根本を切り裂いた。


 竜の咆哮に混じるアールの、痛みに呻く叫び声に全身を震わせながらも、何とか、幻獣の胸を切り開く。少しずつ、靄と化して空気に紛れていく幻獣の身体の奥底にアールの身体を認めるや否や、ライは手にした剣で幻獣からアールの身体を切り離し、背中の翼を残して巨人から元の姿に戻るなりアールを抱き締めて空へ向かった。眼下にあるのは、もはや原形を留めないどす黒い靄。ライの腕にぐったりと身を預けたアールの、僅かに感じる温もりに、ライはほっと息を吐いた。次の瞬間。ライの体力が、限界を迎える。背中の翼が溶けるのを感じながら、それでもアールを守ろうと、ライはアールをぎゅっと抱き締めた。




 灰色の空が、視界いっぱいに広がっている。首だけを動かすと、枯れた地面に並んだ小さな石の固まりが、幾つも、ライの視界に入ってきた。ここは。既視感が、ライを支配する。そうだ、ここは。皇都の、皇城と近衛騎士の詰所との間にある、……墓地、だ。


 そっと、胸の上に俯せに倒れている影を見やる。その影、アールが発した、僅かな呻き声に、ライはほっと息を吐いた。父との約束通り、アールを、助けることが、できた。良かった。気怠さを覚え、ライはそっと、目を閉じた。


「ここは……」


 アールの声が、耳に響く。


「おい! ライ! しっかりしろっ!」


 続いて響くアールの声と、全身が酷く揺さぶられる感覚に心地良さを感じ、ライは静かに、微笑んだ。

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