04.シャインの思惑

 ラルスとは良い関係を築けていると言えた。

 今までにないタイプの護衛騎士。

 喜怒哀楽がはっきりしていて、心のままに声を発してしまうラルス。フローリアンが勉強していなくても、うるさいことはなにも言ってこない。

 けれど、疲れている時には必ず声を掛けてくれ、同じテーブルで一緒に紅茶を飲んだ。

 まずい紅茶を飲みたいと思うようになるとは、フローリアンも思わなかったことだ。ラルスはいつも新しい発見をくれる。


 ある日、兄の護衛騎士であるシャインと話す機会があった。と言っても、忙しくしているシャインと廊下ですれ違っただけだが。


「なぁシャイン。どうして僕の護衛騎士にラルスを推薦したんだ?」

「あ、それ、俺も聞きたかったんです!」


 後ろを着いて歩いていたラルスが声を上げる。こう言ってはなんだが、ラルスには王族の護衛など務まらないと、誰しもが思っていることだろう。

 なのに、護衛騎士として、そして監視役としても家臣としても超有能なシャインが、どうしてラルスを推したのかが理解できない。

 フローリアンの問いに、シャインは「そうですね」とにっこり笑った。


「フローリアン様と王家のためには、彼のような人物が必要だと思ったのです」

「……こいつが?」

「殿下、その言い草はないですよー!」

「あはは、ごめんごめん」


 シャインはそうやりとりするフローリアンとラルスを見て、端正な顔立ちを綻ばせている。おそらくなんらかの意図があってのことだとは思うが、それがなにかはわからなかった。


「どうしてラルスが王家に必要だと?」

「いえ、まだ確定ではありませんので、王子はあまりお気になさらず。それでは失礼いたします」


 シャインはフローリアンに丁寧な礼をして去っていく。どうにも釈然としないが、直接聞いてもダメならもう教えてはくれないだろう。


「やっぱり俺に光るものが……!」

「だから違うって」


 フローリアンとラルスは、顔を見合わせるとプッと笑った。



 貴族は十五歳にもなると、社交界に出席しなければならない。王子という身分であるフローリアンには、頼んでもいないのに招待状が来てしまうのだ。


 今度はツェツィーリアのお目当てであるイグナーツの父親が主催する舞踏会があり、そこに出席しなければならないことになっている。

 ツェツィーリアも招待されていて、彼女は浮かれっぱなしだった。遊びに来てくれた彼女と、いつもと同じように部屋の端でこそこそとお話をする。


「イグナーツ様は、誰と踊られるのかしら」


 ほうっと息をつく姿は、まさに恋する乙女だ。


「そりゃ、ツェツィーに決まっているよ。絶対イグナーツもツェツィーのことが好きだって!」

「そ、そうでしょうか? フロー様にそう言われると、期待してしまいますわ」


 胸に手を当てて、嬉しそうに微笑むツェツィーリア。彼女の高揚が、フローリアンにまで届いてきそうなほどに。

 対するフローリアンは、薄い唇から重く滞る息を吐き出した。


「僕は気が重いよ……誰とも踊りたくないな」


 フローリアンは婚約者がいてもおかしくはない年齢だ。だから余計に目の色を変えた令嬢たちが、フローリアンを狙ってくる。

 そんな彼女たちを騙すのも申し訳なかったし、単純に女の子が迫ってくるのは気持ち悪かった。男なら良いかと言われると、そうでもなかったが。


「大丈夫、わたくしがいますわ! わたくしとなら、楽しく踊れますでしょう?」


「え? でもツェツィーはイグナーツと……」

「誘ってくださるかどうかは、わかりませんもの。それに踊れたとしても、続けて何曲も踊ることはあり得ませんし。必ずフロー様のところに行きますわね」

「うん……ありがとう、ツェツィー」


 にこっと微笑んでくれるその顔は、まさに天使。

 彼女と結ばれるであろうイグナーツは果報者だなと心から思った。

 ツェツィーリアの腕に光るアパタイトのブレスレットは、イグナーツとの絆を強めて、幸せになれる象徴のように感じた。

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