The knight of darksoul
ナツミカン
prologueー闇に潜む者たちー
全てには闇がある。
――そう、わたしも……。
闇のない光など、何処にもありはしないのだ。
――だから世界は回る。だから世界は動く。ならわたしは……。
わたしは、何処へ流れていくのだろう。
幾多となくひしめくビルの群れが、暗い夜空へと突き抜ける。建物のネオンが街を包み、都会ならではの華やかさを纏っている。
ここは
人々は時の華やかさに浮かれ、酔いしれる。だが、決して忘れてはならない。
この世界の闇に潜む“奴等”を……。
「あぁ~!今日も一日やな感じだったわぁ~」
華やかなネオンの中を、ひとりの女性がふらふらと歩いていた。顔は赤く染まり口調も愚痴っぽい、どうやら酔っているらしい。
「全くあのバカ上司、何回同じ仕事をさせる気だってのよ!ったく……。やってられないったらないわ」
女性はブツブツ文句を言いながら、人気のない路地へと入った。そこは先程までのネオンとは打ってかわって、僅かな光のみが指す闇の世界。
“決して踏み込んではならない”
女性は酔っているせいか、どんどん闇の中へと脚を踏み入れていく。
“決して忘れてはならない”
そして。
女性は何かに躓き、顔面から転倒した。
「痛た……。も~!何よいきなり~!!」
女性は喚きながら、躓いた物体に目をやる。そこにあったのは……。
人の死体だった。
「きゃあああ!?何なのよこれーー!!」
女性は死体を見るなり一瞬で酔いが醒めると、即座に悲鳴を上げた。その死体は腹を何かに貫かれた上、片腕が食いちぎられたようになくなっている。
「ヒヒッ。今日は次から次へと、ご馳走がくるなぁ」
すると不気味な笑い声と共に、闇の中からひとりの男が姿を現した。
漆黒を思わせるほどの黒髪に、血塗られたような紅い瞳。この世のものとは思えない出で立ちだ。
「しかも女かぁ。特に若い女の血肉は、美味だからな。ヒッヒッ」
男は震える女性を見ながら、血のついた口を舌で嘗めた。対する女性は目の前に迫る恐怖に、ただ震えながら後退りをするしかない。
「な、なによ……。あんた……」
そして。
「ヒヒッ。バァーイ」
“闇に潜む、奴等の存在を”
突如何かに貫かれ、女性は絶命した。
「フッヒッヒッ!呆気ないもんだな、人間は」
男は死んだ女性の死体を見ながら、不気味な笑い声を上げた。その側では、倒れた女性の死体から血が流れ、紅の水溜まりが広がっていく。
“そして忘れてはならない”
「さぁて。魂も喰らったことだし、早速食事とするか」
そういって男は、死体に近づこうとする。
その時だった。
何かの殺気と同時に感じた僅かな冷気。不審に思った男が顔を上げると、そこにはに幾つもの氷柱があった。そして氷柱は、一直線に男目掛けて落ちてくる。
「!!」
男は驚きながらも、咄嗟に後方へ跳んだ。そのため氷柱は、誰もいなくなった地面に虚しく突き刺る。
そして男は、突き刺さる冷たい殺気のする方へ振り返った。
路地の隙間から漂う光を遮るように、ゆっくりとこちらに歩いてくるひとりの人間。その人間は漆黒を思わせるローブを纏い、フードから見える紅い瞳で、男を冷たい眼で見つめていた。
「あぁ?何だおまえ、折角の至福の時を邪魔しやがって」
男は不良のごとく、黒コートの人物に因縁をつける。しかしその者は、彼の言葉を無視しさらに近づいてくる。
「おいてめぇ!聞いてるのか!」
男は黒コートの人物に対し怒鳴り付けるが、その者は微々たりともせず両手を懐に持ってきた。するとそこから闇のような塊が出現し、闇はひとつの武器へと姿を変える。
それは赤茶色に塗装され、先端に白い装飾が施された一本の棍棒。さらにその者は棍棒の先端に手を当て、小さく呟きながら手で棍棒を撫でた。
「奏・“
すると撫でられた所から光を帯びていき、やがて棍棒は光の両刃剣へ変貌する。
黒コートの人物はそのまま棍を構えると、戦闘体勢に入った。そこでようやく、男は目の前の人物が何者であるかを悟った。
「そうか。貴様、ハンターだな?」
「……だったら何だ」
「いや。ハンターがお出ましとは、今日は尚更ついてると思ってな!」
男は歓喜の声を上げると同時に両手を掲げ、そこから巨大な球体を生み出した。球体はみるみる巨大化し、おぞましいエネルギー体がみるみる周囲の壁を浸食していく。
全てを呑み込まんばかりの勢いは、ブラックホールを連想させた。
しかし黒コートの者--ハンターは、その光景にすら何の動揺も見せない。ただ、エネルギー体がもたらす風によって靡かれるフードから、紅い眼を向けるだけだ。
「おら!喰らいやがれ!!」
男はハンターが怖じ気づいたと思い、そのまま勢いよく球体をハンターに投げつけた。
放たれた球体は壁を抉りながら、ハンター目掛けて一直線に飛んでいく。そして凄まじい轟音と同時に、勢いよく破裂した。
内部に圧縮されていたエネルギーは、待っていたと言わんばかりに一気に弾け、あまりの威力に路地は一瞬で爆風による土煙で埋め尽くされる。
「へっ!人間風情が呆気ないもんだな」
蔓延する土煙の中、男はハンターのいた場所を見ながら嘲笑う。しかし彼は気付いていなかった。球体が破裂する直前、フードの隙間からハンターが微かに笑っていたことを。
「この程度か……」
突如土煙の中から響く声。その瞬間、先程まで余裕の表情を見せていた男の表情が凍る。
なぜならその声の主は、彼が倒したと思っていたはずのハンターのものだったからだ。
「バカな!例えハンターでも、オレの攻撃で死なない人間がいるはずがねぇ!」
現状に動揺する男だが、ハンターの声がした以上相手が生きていることは明白だった。
そしてふと、男はハンターの特徴を思い返してみた。
漆黒のコート、紅い瞳、棍棒、そして氷……。
「まさか――!!」
男が答えを出した時には、既に遅かった。途端土煙から棍棒を持ったハンターが、勢いよく男に突っ込んできたのだ。
そしてハンターが武器を振りかざす瞬間、男はただ恐怖に叫ぶしかなかった。
「
「闇に堕ちろ。哀れな迷い子!」
揺れる男の瞳に映る、もうひとつの紅い瞳。それが彼の見た最期の光景だった。
その後男の身体に一閃が走り、大量の血と共に男は闇の霧となって消えた。闇の中にひとり取り残されたハンターの周囲には、先程まで男のものだった血の水たまりが充満している。
そしてハンターは、懐から通信機を取り出すと、静かに告げた。
「こちら“ダークナイト”。
世界は、光と闇に満ちている。しかし人は溢れすぎた光に溺れ、闇を忘れてしまう。
闇に潜む“彼ら”の存在を。
その名は――。
ダークソウル。
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