インフィニティ・インフィニティ
紫風
インフィニティ・インフィニティ
これで何回目のサインだろうか。
肉体を離れ旅立つとき、迎えの天使の差し出す書類に、旅人はサインをする。
「名前、と、生年月日、年齢ね」
何回書いただろうか。このまますぐ、私は赤ん坊で目覚める。
今の意識と記憶を持ったまま。
普通はちょっと休んで、クリーニングして意識と記憶は封印し、まっさらな気持ちで次の生を始めるはず。
だが、私は違った。
最初は日本人だった。最初かどうかは分らないが、このループの出発点は、間違いなく日本人だった。
そこから私は、気付けばとある令嬢になっていた。
その生はしばらく続いたが、ある時病気でその生を閉じた。
享年28歳だった。
その時、天使の差し出すこの書類にサインし、その後すぐに次の生が始まったのだった。
私は、28歳の後、8歳、18歳と、転々と生を繰り返していった。
何度繰り返せばいいのだろう。
その都度繰り返す生は、幸せなものもあったが、困難続きで失意のうちに意識を手放す生もあった。
休みたい。
そろそろ開放してほしい。
気付けば、私は最初の生から数えて、合計で88歳になろうとしていた。
いったい、いつになったら――。
そして、なんでこうなった。
「サインを」
「はいはい」
ふと、今サインした書類を見返すと、書いたばっかりの年齢の数字が目に入った。
「8って、無限(∞)みたい」
それきり私の意識は途絶えて、気が付けば次の生が始まっていた。
「サインを」
「はいはい」
名前と生年月日を書いて、ペンが止まった。
―― もしかして。
「お早くサインを」
迎えの天使に催促された。
サインをしない、という選択肢はない。
そうだ。
私はさらさらと書いた。
次の瞬間、私の前に扉が現れて開いたかと思うと、花が咲き乱れ、川が流れる場所にいた。見下ろす誰かの顔ではない。
ゴールだった。
私は足取り軽く、花畑を通って川に向かった。
日本人でよかった。
享年の所に、八、と書いた。8ではなく、末広がりの八。
それこそが、ループから抜け出す呪文だったのだ。
END.
インフィニティ・インフィニティ 紫風 @sifu_m
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