家族会議

NADA

88歳

毎年、盆と正月だけは家族で集まる

それぞれの都合があり、今年のお正月は集まるのはやめようかと話していたが、父親の年齢が今年88歳になることもあり、顔を見に集まろうという結論に落ち着いた


1月3日のお昼頃、夫は息子の用事に付き添い出かけたので、娘と二人実家へ向かった

お昼前に、注文しておいたお寿司を取りに行き、そのまま実家へ向かったので、私が一番乗りだった


年老いた両親が、わざわざ玄関から出て来て、車庫入れする車の後ろで笑顔で立っている

三姉妹の末っ子の私が50歳近くの年になるのだから、両親が元気なだけでも有り難いことだ


玄関を入ると、立派な黄色い胡蝶蘭が置いてある

長女から、父親へ米寿のお祝いで送ってきたらしい

「本人は?」

「まだ、来てない」

長女は、仕事で遅れるそうだ

お正月から働いている長女はバツイチで、子供はいない

まあ、結婚に向いているタイプではないと、昔から思っていた


お寿司を食べる準備をしていると、車のエンジンの音がする

次女が来たようだ

いつまでたっても、ペーパードライバーの次女の運転は、何度もハンドルを切り返しているのですぐわかる


心配した父親が見に行って、5分程してようやく音が止まった

玄関から騒がしい声がする

次女は、細かいことに口うるさく、旦那さんや息子たちは一緒に行動したくないようで、一人でやって来た

「あれ、一人?」

と私が聞くと、息子たちは別で後から顔だけ出すということだった


はい、お父さんと次女がラッピングされた箱を父親に渡す

父親が箱を開けると、セーターがでてきた

「米寿なだけに、ベージュのセーター?」

私のダジャレはスルーして、次女がセーターについて、いかに良いものかを父に説明している


お寿司を食べていると、長女も来た

一段落してお茶をいれ、私が持ってきた父の好きな和菓子を皆で食べていると、父親が言った

「今日は良い機会だから、今後のことを話しておきたい」


まず、葬式は必要ない、と言い出したので、また、その話?と私が口を出すと、母が

「お葬式は家族だけで、娘三人だけでいいって」

それで、永代供養はあのお寺で、と今度は母が言い出した

わかってるから、それも、と私


人間、死が近くなるとそんなことばかり考えるようになるのだろうか…

「問題は俺が死んだ後だ」

と、父親が真顔で語りだした

母が一人ではやっていけないだの、長女は働けなくなったら、収入がなくなるだのと話は止まらない

次女が、私は介護とか無理だから、と言い、長女は和菓子3個目を食べている


「それだけ元気なら、まだ死なないわ」

と私が言うと、話を聞きなさいと父親が手で制す

父は、真剣に心配している


この父のおかげで、私たち家族は生きてこられた

88歳になろうというのに、まだ家族のことを必死になって考えている

母や姉たちを見ていると、確かに心配だとは思うけど、50歳にもなる娘たちは、もう自分の力で生きていくからね

本当にありがとう、お父さん

感謝してます

次は、卒寿だね

元気で長生きしてね










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家族会議 NADA @monokaki

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