第1話 ラスボス倒したった


 強烈な違和感で目を開ければ、そこは星々が煌めく宇宙空間だった。

 足下は水色に輝くヴェールが広がり、それが遠くの果てで霧状の靄になっている。


 ――――どこか見覚えがあるな。


 そう思った矢先だった。


 気付けば、目の前に山のように大きいが巨大な翼を広げて構えている。

 反射的に腰にある鞘から抜刀していた。

 それが合図だったかのようにが耳を劈く咆哮を上げる。


 視界の端に敵のHPゲージが表示され、そのゲージの上に詠唱バーが出現する。

 その名称を見て戦慄を覚える。

 

 ――――自己中心範囲闇属性魔法の『メテオインパクト』。

 

 更に詠唱バーが続けざまに3つ表示されていた。

 連続詠唱だ!

 

「いきなりそうくるか」


 しかし、なぜか私は慌てず、冷静にステータスウィンドウを開いて素早くパッシブスキルを発動させる。

 

「フォルト!」


 フォルト発動 被ダメージ30%軽減 効果30秒間 リキャスト60秒


 続けざまにもう一つのパッシブスキルも発動する。


「テンペル!」


 被ダメージ50%軽減 効果30秒間 リキャスト120秒


 ごく自然に自分のクラスを把握していた。

 クラスは聖騎士だ。

 まだまだ己にバフを使用する。


「ハイリヒアイト! シュトルヒン! ハイリヒシルト! リッターオルデン!」


『ハイリヒアイト』は自身の魔法命中力アップ、光属性魔法攻撃力アップ、回復魔法を受けた場合、周囲に自己HP10%分のバリア付与。


『シュトルヒン』は対象のHPを大回復させ、自身はその半分のHPが回復する。自身が対象なら大回復のみ(HPが満タンでもハイリヒアイト使用前提の回復)


『ハイリヒシルト』は8秒間、受ける攻撃を必ずシールドブロック ダーメジ軽減20%、追加効果で自身に『聖騎士の堅守』を付与(ダメージ軽減よりも『聖騎士の堅守』バフが優秀なスキルなので発動させる)


『聖騎士の堅守』対象の被ダメージを20%軽減 追加効果 自身に『聖騎士の加護』を付与 効果時間 12秒

『聖騎士の加護』効果 対象のHPを3秒/10%継続回復する(ややこしい発動条件な『聖騎士の加護』は優秀な継続回復が付与されるから発動必須)


『リッターオルデン』自己を含む、後方扇範囲に被ダメ軽減20% 効果中自身のシールドブロック率100% 効果時間 20秒 効果時間中にアクションを行うと解除 実行中はオートアタック停止というデメリットあり。


 過剰なまでバフをかけたのも理由がある。

の使用する『メテオインパクト』にダメージや追加効果が不明だからだ。

 もしかしたらその魔法のあとに固有スキルの『エインブレス』を使うかもしれない。

 現HPマイナス1のダメージという凶悪なスキルで、タイミングによっては合間の通常攻撃で昇天してしまうからだ。


 周囲が紅蓮の灼熱に染まった。

 溶岩の固まりのようなモノが立て続けに着弾し、猛烈な熱砂と火の粉が激しく舞う。

 白銀の盾を掲げ、激しい猛攻に耐えながら自分のHPゲージを横目で捉える。


 ――――HPゲージはまったく減っていない。


 これだけの派手な演出なのに、


 私自身は何も感じていない。

 

 周囲に次々と浮かび上がるフォント数字は、おそらくダメージ数値なのだろうが、すべてが0表示だった。


 つまり、まったくダメージを受けていない!


 さすが聖騎士の防御バフは優秀だ。

 とはいえ、このまま攻撃を受け続けるのも癪なので、反撃に転じたい。

 ただ、俯瞰視点ではなく、真っ正面の巨大なドラゴンに斬りつける勇気はなかった。

 なので、ここは魔法を使うとしよう。


「シュラーヘン! バイヒテン!」


『シュラーヘン』光属性魔法攻撃 追加効果 自身にシュラーヘン付与 効果時間30秒『シュラーヘン』効果 魔法を詠唱時間無しで詠唱することができ、更に光属性魔法の威力を大幅にアップする。


『バイヒテン』対象周囲に光属性範囲魔法攻撃 発動条件『シュラーヘン』効果中、実行時に『シュラーヘン』の効果が切れる。


 発動の瞬間、眩い光の粒子がドラゴンに集まり、次の瞬間、膨大な光の粒が弾けて暗かった空間に白い輝きが氾濫した。

『メテオインパクト』を超える派手な演出に目が開けられない。

 凄まじい音量で耳が機能不全に陥るくらいだった。

 しばらく轟音と光の奔流が続き、盾を構えたまま微動だにせずにいてみたが、


「…………」


 戦闘エフェクトが消えていたので、盾の隙間からドラゴンをチラ見してみる。

 すると、ドラゴンの身体が徐々に崩れて消えていく最中だった。


「…………え? もしかして…………、終わり?」


 ついに尻尾まで消えて、しばらく呆然と立っていると、


『Congratulation!!』


 という文字がでかでかと表示されている。


「うそでしょ? 魔法二発で終了……?」


 あれだけ派手な演出だったので、もっと戦闘が続くと思っていた。

 

 だが、終わってみれば本当に一瞬だった。

 

「瞬殺じゃん…………」


 まだまだ状況に追いつけなく、頭の整理が覚束ない。

 すると、ステータスウィンドウにログが表示され、アイテムがドロップされていた。

 アイテム名を確認すれば『リントヴルムナイフ』とある。


「あれ? これって…………」


 はっとした。


 思い出した!


 このの名前は『神龍』で『リントヴルムナイフ』はのドロップアイテムだ!!


 確か……………


「ラスボスじゃんコイツ!!!!!!!」

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