88歳になっても

瀬川

88歳になっても





「88歳になったら、何しているだろうな」



 そう隣から聞こえてきたのは、ちょうどテレビのニュースで特集を見ていた時だった。

 88歳になったお祝いをしてもらっているおじいちゃんは、子供や孫やひ孫、さらには玄孫やしゃごに囲まれて嬉しそうに笑っている。



『これからも、いつも通り生活するだけです』



 まだまだしっかりしているから、きっと長生きするだろう。

 たくさんの人に囲まれて、絶対に幸せな人生のはずだ。


 そっちを見ていて、反応が遅れてしまった。



「どうしたの急に」



 笑い混じりに言ったが、もしかしたら声が震えていたかもしれない。

 でも向こうは何も気にせずに、テレビを見て微笑んでいる。



「なんとなく。こういう風に家族と一緒に過ごせたら、幸せなんだろうなって思って」



 それは、俺と別れたいと遠回しに言っているのか。

 思考が飛びすぎているわけじゃない。

 俺も彼も男だ。テレビの中のおじいちゃんのような家族を、俺では作ってあげられない。


 こんな人生に憧れているのなら、俺と一緒にいない方がいい。

 せっかく二人きりの休みなのに、これから別れ話をされるのか。もしかしてずっとタイミングを見計らっていたのか。


 考えれば考えるほど目の前が暗くなって、震えが止まらなくなる。

 嫌だ。でも彼の幸せのために、俺は身を引かなきゃいけない。


 向こうから言われるぐらいだったら、いっそ俺から言うべきか。

 震える体を押さえながら、俺は口を開いた。



「二人で長生きしような。縁側でのんびりお茶を飲んで、犬を飼うのもいいな。将来は開い平屋に憧れているんだ。君は?」



 その前に、彼の手が俺の手を握った。

 温かい。一気に視界が開けて、そして涙が溢れた。



「大福っ、食べたい」


「いいね。毎日買って食べよう」


「毎日は多いって」


「ははっ。そうだね」



 彼の将来に俺がいる。

 88歳になっても、俺が隣にいることを望んでくれているなんて幸せだ。

 テレビのような大勢の人に囲まれることは難しいかもしれないけど、それでも俺達は誰よりも幸せである。




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88歳になっても 瀬川 @segawa08

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