いまはもういない思い出の中のおじいちゃん

花月夜れん

僕とおじいちゃん

「おじいちゃん! リモコンがない!」

「そうか! 任せろ! じいちゃんが見つけてやろう」


 能勢直人、八才の夏休みに田舎にきています。

 僕がさっき呼んだおじいちゃん、能勢国雅。おじいちゃんのお父さんらしい。だから正確にはひいじいちゃんだ。お父さんがおじいちゃんって呼ぶから、僕もおじいちゃんって呼んでる。


「ない、ないよ!」

「まだだ、まだ慌てる時間じゃない」

「もうすぐメタルブラッカー(アニメ)が始まっちゃうよー!」

「む、そうか! 待ってろよー。よし子さん!」


 おじいちゃんは(ひい)おばあちゃんの名前を呼ぶ。


「わたしは知りませんよ」


 残念、知らないみたいだった。


「恵子!」


 今度はおばあちゃんの名前。


「知りませんよー。お義父さんがテレビ見てませんでした?」

「むっ!」


 そう言われ、おじいちゃんは急いで自分の部屋を探しだした。僕もあとを追った。


「うむ。ないっ!」

「えー。ちゃんと探してよー」


 あと五分しかない。万事休すか。


「勝也!! 勝也」


 おじいちゃんは僕のお父さんの名前を呼ぶ。


「じいちゃん、腰やらかすぞ」

「俺の事はどうでもいいんだよ! 可愛いひ孫がテレビのリモコンを探しているんだぞ」

「はぁー」


 お父さんはテレビの横をポチポチさわってテレビをつけた。


「あ、あぁー!」


 その手があった!! 僕はメタルブラッカーの時間に間に合ったのだ。ちょうどオープニングの歌が始まったところだった。


 ぴっっ


 変えられる音がする。


「めーっ! あたしの見るのー」


 妹の萌衣が握っているのはテレビのリモコン。


「あー!!」


 あった。あったけど、これは万能リモコンの方だ!

 本物じゃない!

 喧嘩はダメよとお母さんが萌衣からリモコンを取り上げる。


「まだ萌衣ちゃんのは始まらないでしょ」


 チャンネルをもとに戻してもらえておじいちゃんに抱っこされながら、メタルブラッカーを見る。


「なあ、おじいちゃん」

「ん、どうした? 直人」

「お腹に何か入ってない?」

「お、すまほか?」


 おじいちゃんはお腹に手をいれるとじゃーんと見せてくれた。それは黒くて長くて、そう――。


「あったじゃんー」

「あったのぉ」


 おじいちゃんと僕は二人で笑いあった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

いまはもういない思い出の中のおじいちゃん 花月夜れん @kumizurenka

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ