第12話「厳しい罰」第一王子・伯爵令嬢ざまぁ




――ベルンハルト・エーダー視点――



父上に呼び出され、謁見の間に行く。


謁見の間の前にはハンナとハンナの両親のシフ伯爵夫妻がいた。


ハンナたちも父上に呼び出されたという。


ちょうどいい、父上にハンナとの婚約について話そう。


謁見の間の扉を開けると、待ち構えていた衛兵に捕らえられ、床に膝をつく姿勢で後ろ手に縛られた。


周りを見るとハンナもシフ伯爵夫妻も同じように拘束されていた。


「父上、これはいったい!」


「ベルンハルト・エーダーに告げる。

カイテル公爵令嬢に冤罪をかけ、暴力をふるい、罵倒した罪で王位継承権を剥奪し、除籍処分とする。

なお、ベルンハルトとカイテル公爵令嬢の婚約はすでに破棄されている。

ベルンハルトを牢獄送りとする。

貴族牢ではない、平民用の独房にいれよ」


「はっ? 

俺は王子だぞ?! 

なぜ公爵令嬢に暴力を振るったぐらいで王位継承権を剥奪され、王族から除籍処分になるんだ!

俺を牢獄に入れるなんて間違っている!」


「ベルンハルトを黙らせろ。

そやつはもう平民だ。

手荒に扱っても構わん」


「かしこまりました!」


「触るな! 俺は第一王子だぞ!」


俺は衛兵にみぞおちを殴られ、さるぐつわをされ、床に転がされた。


なんだ! いったい何が起きているんだ!


「次はハンナ・シフの罪を裁く」

 

抑揚のない声で父上が告げる。


「私の罪を裁くって?! 

私は何もしてないわ!」


「ハンナ・シフはカイテル公爵令嬢を陥れようと、カイテル公爵令嬢に階段から突き落とされたという虚偽の訴えをした。

よって、シフ伯爵令嬢は、伯爵家から除籍し、牢獄送りとする」


ハンナの言葉に父上が言葉を重ねた。


「はぁ!? 

そんなことで伯爵家から除籍された上に牢屋に入れられるなんて、ありえないわ!!」


「その娘を捉えよ。

そやつも平民だ。

手荒に扱っても構わない」


「承知いたしました!」


「きゃ! 止めて! どこ触ってるのよ! エッチ!」


暴れるハンナの頬を兵士がひっぱたく。


ハンナもさるぐつわをされて、俺の隣に転がされた。


「シフ伯爵には娘のしでかした事の責任をとってもらう。

シフ伯爵家はお取り潰し。

平民となったシフ伯爵夫妻は強制労働所送りとする」


「陛下、お考え直しください!」


「娘のハンナは伯爵家から除籍します!

だからお取り潰しだけはご勘弁ください!」


「余の話を聞いてなかったのか?

ハンナはすでに余が除籍した。

その女の犯した罪は大罪だ。

ハンナ一人を牢獄に入れただけでは足りぬから、シフ伯爵家を取り潰し、ハンナの親であるお前たち二人に強制労働所送りを命じたのだ。

命があるだけありがたく思え。

こやつらを連れていけ、目障りだ!」


「「「御意!!」」」


父の命令を受けた衛兵が、俺たちを無理やり立たせる。


運ばれるとき、猿轡が緩んだ。俺はここぞとばかりに声を上げる。


「助けてください父上!

牢屋に入るなんて嫌です!

心を入れ替えます!

レーアが婚約者でも我慢しますから……!

どうかお慈悲を!」


「いやーー!

離して!

離しなさいよ!

私は何も悪いことしてないわ!!

助けてーー!」


ハンナの猿轡も緩んだのか、叫び声を上げていた。


「陛下どうかお考え直しください!

ハンナは私たちの手で処分しますから!」


「強制労働所などに送られたら、一年も生きられません!

陛下、どうか我々にお慈悲を!」


元伯爵夫人が父に慈悲をこう。


だが俺たちがどんなに叫んでも、父上は無表情だった。


いや父上の俺を見る目は、ゴミを見る目と同じだった。


こうして俺とハンナは暗くて臭くて汚い牢屋へ。


ハンナの両親は、過酷と評判の強制労働所へ送られた。 






牢屋に入れられた俺に与えられたのは、一日カビの生えたパン一個。


ボロボロの服を着せられ、風呂に入れないから、日に日に薄汚れていく。


ただ死を待つだけの日々が続いた。


腹が空きすぎて、怒る気力も、泣く気力も、わめく気力も湧かない。


牢屋に入ってから、看守からレーアの一族がどんなにすごい人間なのか、聞かされた。


そんな人間を敵に回すなんて、俺はアホだ。


そして俺は牢屋に入れられてから一年後、肺を患った。


多分俺はもうすぐ死ぬ。


立太子確実、未来の国王と言われた俺が、こんな目に合うとはな。


ハンナに会って、あいつにそそのかされたせいだ。


あいつに出会わなければ、今頃俺はふかふかのベッドの上で、優雅にモーニングティーを飲んでいたのに。


ハンナ、あいつにさえ出会わなければ……。


レーア……許してくれ……。


もう一度俺の婚約者になって……。





※ベルンハルト、牢屋に入れられた一年後に肺を患って死亡。


 




――ハンナ・視点――



ドレスの代わりに渡されたのはボロボロのワンピース。


「そんなの着たくない!」


といったら、「なら裸でいろ」と冷たく返された。


仕方なくワンピースに着替える。


臭くて暗くて汚い牢屋に入れられ、一日カビの生えたパン一個を渡される。


なんで! どうしてこうなったの?!


私はベルンハルト様と結婚して、王子妃になって贅沢して暮らすはずだったのに!


ゆくゆくは王太子妃、数年後には王妃になる予定だったのに!


レーア様をちょっとはめようとしただけなのに、なんでこんな目に合わされるのよ!


こんなことになるんなら、ベルンハルト様になんて手を出すんじゃなかった!


あんな男、レーア様にリボンをつけて返してあげるわよ!


なんでよ!


どうしてよ!


誰かここから助け出してよ!





牢屋に入ってしばらくしてから、看守の男からレーアの一族がどんなにすごい人間なのか聞かされた。


すごいのは王族のベルンハルトではなく、王族を支えていたカイテル公爵家だった。


そうと分かっていたら、ベルンハルトになんか近づかなかったのに……!


ベルンハルト、あんな男に会わなければこんなことにはならなかった。


ベルンハルトが悪いのよ、レーア様っていう婚約者がいるくせに、私にも手をだすから!


ベルンハルト、あいつだけは許さない。


あのスケベ役立たずポンコツくず王子!


次の人生では、もっと素敵な王子様に出会って……幸せな人生を……送ってやる。








※ハンナは牢屋に入って約一年後に亡くなりました。

ハンナの両親も強制労働所の事故に巻き込まれ、一年後に死にました。


※ベルンハルトとハンナは転生して再会します。

貧乏で仲は最悪です。

しかしなぜか離れられず、二人で仲良く坂道を転がり落ちてます。


※前作でざまぁ描写をたくさん書きすぎて、ざまぁを書くのに疲れました。

なので今作のざまぁ描写はあっさりです。

すみません。





☆☆☆☆☆☆

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