世紀末でお粗末ごはん🍚

空本 青大

第1話

無機質で一面の白い壁。

部屋の中央にはベッド型のポッドが2つ。

ポッドの上部に表示される時計のカウントダウンが5秒を切った。

5・・・・・

4・・・・

3・・・

2・・

1・

0

プシューと空気が漏れる音とともにポッドの蓋が上へと開く。

ポッドの中には1人の少女。

年は15~16歳ほど。

短髪の白い髪。

眉がぴくぴくと動き、まぶたが静かに開く。


「ん・・ん~~~~~」


ゆっくりとからだを起こし、大きく体を伸ばす。

短髪白髪の少女の横ではもう一人の少女が目を覚ましていた。


「おはようホプちゃん」


ホプと呼ばれた少女が右を向くと、長髪で白髪、

同い年くらいの少女が穏やかな笑顔を向けていた。


「おう久しぶり、ウィッシュ」


少し眠そうな顔でホプはウィッシュに挨拶を交わす。


『15分のブレークタイムに入ります。この間に体勢を整えて下さい』


部屋に女性の機械音声のアナウンスが響き渡る。

2人は指示に従いポッドの中から外へと出た。


「あ~~寝たわ~。12時間ぶりか?」

「そうだね。日付も変わってるし」


ポッド以外何もない部屋でうろうろしながら2人は談笑を始める。


「なんかもっとアクティブに動きてーよ。半日も寝るとか猫かよ!」

「しょうがないよ。食料難の影響で1日の摂取カロリーも制限されてるから、それに伴って活動も制限されてるからね」


ふぅとため息をつきホプは壁へと寄りかかる。


「腹減った・・。こんな食べ盛りの美少女が満足に食べられないとか・・。

くそう!もっとカロリー食わせろ!発育させろ!」

「もう、ホプちゃんってば子供じゃないんだから・・」

「うるせー!大人ぶんな!乳がでかいからってよー!」

「も、もうやめてよ~~~」


襲いかかるホプに胸部を揉まれウィシュの顔が羞恥に染まる。


『時間です。ラジオ体操はじめ』


再び機械音声の指示が部屋中に響き渡る。

そしてどこからともなくラジオ体操の曲が流れ始める。

2人はじゃれ合いをやめ体勢を整え、運動を開始した。


「つーか体操はわかるんだけど、ラジオって何?」

「なんか人のおしゃべりだとか音楽だとかを放送局ってとこから電波に乗せて飛ばして、端末に受信させて聞くもの・・だったかな?」

「体操となにか関係あんのか?」

「さ、さあ・・。遥か昔の技術だから私もよくわかんないや」


会話をしながら曲に合わせ体操を続け、数分後終了した。


「ふぃ~よく動いた。よっしゃ!メシだぁ!!」

「まだお勉強の時間があるよ?」

「ちぃ!!!まだカロリー消費させる気かい!」


部屋の真ん中に床から机と椅子がせりあがってくる。


『座学の時間です。今日は歴史です』


席に着いた2人の机から地球の3Dホログラムが現れる。


『地球は200年前資源豊かな惑星でした。ですが、爆発的な人口増加、正体不明の疫病の蔓延、土地と資源の奪い合い、巨大隕石の衝突など度重なる不運や試練に見舞われ・・』


機械音声による授業が始まり、時間の経過とともに3Dの地球は薄汚れていく。

そして徐々に地球に表示される大地の形が変化する。

真面目に話に聞き入るウィッシュに対し、ホプは心あらずといった様子だった。


「昔の人類ってこういうときハヤベン?だっけ?授業中に飯食ってたんだろ?いいよな~」

「もう!ちゃんと聞かなきゃだめだよ!」


『・・それでは今日の授業はここまで。お疲れさまでした』


2時間後授業は終了し、2人は席を立ちあがる。

すると机と席は再び床の下へと消えていった。


「あ~~がんばりましたわ~。今度こそ飯じゃあ!」

「ほとんど寝てたくせに・・」


床から今度は食事用のダイニングテーブルとダイニングチェアがせり上がってくる。

即座に席に着くホプに対し、ウィッシュはゆっくりと席に着く。

テーブルの上にはグラスに入れられた白い液体。

重箱のように仕切りのある白くてプラスチックのような食器が置かれていた。

十字で区切られている器の中には、右上に数粒のカプセル錠剤、

右下に緑色のキューブ、左下に茶色のキューブ、左上には赤色のキューブが盛られている。


「うひょー!いただきまっす!」

「はしたないよホプちゃん。わたしもいただきます」


2人は手を合わせ、浅く一礼する。


「ホプちゃん時計回りに食べるんだよ」

「わかってるって!まずは味のしねぇ栄養剤か。これにもなんか味付けしてくんねーかな、バリボリ」


錠剤を手に掴みそのまま口に放り込み咀嚼する。


「錠剤は飲み込むものだよ?」

「バリ、わかって・・ボリ、ゴクンとな!ふぅ・・。少しでも食事感出したいのよ」


錠剤をかみ砕いたホプはグラスを持ち白い液体を2口、3口と飲み込む。


「うぃ~。牛の乳もどきうめ~」

「普通に牛乳でいいじゃない」

「レアすぎて本物の牛乳なんて口にできんだろ。これなんて牛っぽいモノから絞ったやつだし。さて次は・・」


フォークを手にしたホプは緑色のキューブ状のものに突き刺した。


「あー・・ん!モグモグ、モグモグ。腹減ってるとたいして好きでもない野菜もうまく感じるもんだな」

「私は好きだけどな~このお野菜。ほうれん草、ブロッコリー、ピーマン、キャベツにオクラの味がギュって凝縮されて美味しい~」

「入ってるもの食べただけでよくわかるな。野菜の変態め」

「言い方!」


緑のキューブを食べ終えたホプはキラキラした目で茶色のキューブにフォークを突き刺した。


「これのために生きてきた・・。いざ!パク!モグモグ・・」


目を閉じ噛みしめるように味わうホプ。

数十秒咀嚼したのちごくんと飲み込む。

「う、うめーーーーー!牛肉に味付けされたシンプルな塩味!さりげなく混ぜ込まれたハーブの香り!最高の裏方である粒コショウの風味!これが生きてるってことなんだな・・」

「大げさだなぁ。まあ牛肉といってもリアルフェイク肉だけどね」

「わかっとるわい!その昔生息していた松阪牛を再現したセイキマツサカ牛だってことはな!」

「そんな殺伐とした名前じゃないでしょ・・」


器の中に残された最後の赤いキューブ。

2人はフォークで突き刺したキューブを口へと運ぶ。

嚙んだ瞬間、カシュッと小気味いい音が口内に広がった。


「まあ美味いんだけどなんとなく人工甘味料的な甘みを感じるよな、このリンゴ」

「リンゴに限らずだけど結局全部偽物だからね・・」


空になった器。

まったりとした空気が辺りを漂う。


「1日の最大のイベントが終わっちまった・・。しんど・・」

「テンションの落差ありすぎでしょ!なんかほかにも生きがいあるでしょ?」


ん~っと言いながら眉をひそめ考えるホプ。


「ないっすね!考えてみろよ、毎日寝ては起きて体操、勉強、食事だけで外の空気も吸えねー日々だぞ?壁にプロジェクションマッピングで昔の風景は見れるけど、今の世界の姿は見せてもらえねーし。実質飼い殺しやんけ」

「うんまあ、確かにね・・」


深いため息をつきながらホプはボソッと呟く。


「ていうかさ、もう世界もう滅んでるんじゃねかな・・」

「え?」


2人無言のまま数秒顔を見合わせた。


「・・いや~~~ない!ないない!ちょっと妄想がすぎたわ!」

「だ、だよね!もうホプちゃんてば~~~」


部屋の中に響き渡る2人の笑い声。

こうしてホプとウィッシュの1日は過ぎていくのであった―——

―————

―———

―——

―—


『人類保管システムより定時連絡。現在全人口【2】。引き続き人類の生命維持、及び地球の汚染浄化に努める。地球復興まであと50年を予定・・』


『・・以上報告を終了。全人類に"希望"と"願い”があらんことを』













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世紀末でお粗末ごはん🍚 空本 青大 @Soramoto_Aohiro

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