第27話【夢の中は願望が現れる】
お風呂場での淫乱パーティー、もとい二人の背中をを洗い終わったあと、俺は自室に戻った。
着替えを取りにきただけのつもりが、先の戦闘での疲れからか部屋に入るなりそのままベッドに倒れ込んだ。
夢の中。
中世ヨーロッパの埠頭みたいな場所。
デートだろうか、俺は同学年くらいに見える女の子と手を繋ぎ、二人で目の前の海を眺めている。
「風が気持ちいいですね」
前髪を抑える彼女。
その横顔にとても見覚えがあった。
栗毛色のセミロングにハーフアップの編み込み、ピンク色のリボン。
どことなく上品さのある笑顔に俺の胸は高鳴った。
間違いない。
この人はネットラジオ『フィーネの純愛』のパーソナリティ、フィーネさんだ。
番組ホームページのイラストでしか見たことはないが、確信を持って言える。
見慣れたレモン色のワンピースを着たフィーネさんが風に揺られる姿は、小動物のように愛らしくて、今すぐにも抱きしめたい衝動に駆られてしまう。
「学校を卒業したら私、この町を出て、いろんな国を回ってみようかなと思っています」
フィーネさんは口を開き、続けて。
「外の世界の人達といっぱいお話しして、いろんなものを見て、自分がいったい何をしたいのか知りたくて......」
そう語るフィーネさんの表情は希望に満ち溢れ、その時を心から楽しみにしている想いが伝わってくる。
「――あなたの夢は何ですか?」
俺の目を見据え、問いかける。
「俺の夢......」
金縛りにあったかのように体は硬直し、言葉に詰まる。
当然だ、俺には『夢がない』のだから答えられるはずもない。
それでも精一杯、なんとか返事を返そうとしていたところを。
『――
目の前のフィーネさんと声がよく似た何者かの声が遠くの方で聴こえ、同時に視界がぼやけてぐちゃぐちゃ、最後は何もない無の空間に。
夢はそこで終わった。
目を開けると、女性っぽい輪郭の誰かが俺の肩をゆすっていた。
「......おはよう、フィーネさん」
その正体がなんとなくフィーネさんな気がして、俺は思わずそう声を発した。
だが徐々にはっきりとしていく視界に映ったのはフィーネさんではなく、先程までお風呂場で乱れに乱れた、パジャマ姿のセレンさんがそこに。
「ふぇ!? ......あの......え~と......」
間違われたセレンさんの口からは動揺の声が聞こえ、長い耳が真上にぴーんと伸びている。
「ああ、ごめん、セレンさんだったんだね。フィーネさんがこの家にいるはずないのに、寝ぼけちゃって」
架空の人物と何故勘違いしたのか自分でもかわからず、苦笑してごまかす。
「どことなく雰囲気が似ているからかな?」
「そ、そんなことはないと思われるのですよ~」
視線を
「それよりもお風呂、早くお入りになって下さいません? 鑑賞会、晴人さんのお風呂待ちになっていますですので」
「そうだった。すぐ入ってくるから、もう少しだけ待っててね」
様子のおかしいセレンさんが気にはなるが、これ以上二人を待たせるの申し訳ない。
俺はベッドから起き上がると、近くに準備しておいた着替えを抱きかかえてお風呂場に向かった。
セレンさんはきっと、つい先程のお風呂場での一件をまだ引きずっているのだろう。
あの時のことをちょっと思い出すだけで、俺の男の部分が今でもぴくりと反応してしまうくらいに、そりゃあ凄かったもんな......。
20分後。
入浴を済ませリビングに戻ってくるや、ソファーの方から『すぅすぅ』と、小さな寝息が
聞こえてくる。
パジャマ姿の
「ほんの少し前までは起きていたのですが」
隣に座っているセレンさんが綺麗に整った鼻の頭を触りながら、困った笑みを浮かべている。
その光景はできの良い姉と悪い妹、といったところか。
「あれだけ人におもてなしさせておいて先に熟睡とは。良い根性してるな、おい」
「どうしましょう?」
「いいんじゃない、寝かせておこう。その方が静かにアニメ鑑賞できるし」
「もう、晴人さんったら」
そもそもあまり夜更かしが得意なタイプではない上に、アレだけのことがお風呂場であったんだ。疲れもするだろうよ。
「このままソファーの上で朝までは可哀そうですので、紫音さんは私の部屋のベッドに寝かせてきますね。その間、晴人さんは鑑賞会の準備を」
「いいけど......魔法を使って紫音を移動させるとかはナシね」
「......やっぱり反対でお願いします」
セレンさん、
しかも便利グッズ感覚で。
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