第17話【半裸の男女の行列に俺が並ぶのは違和感ハンパない】
とある日の午後の昼休み。
屋上で気持ちよく食後の仮眠をむさぼっている俺に、何者かが何やら紙切れのようなもので頬をぺしぺしと叩く。
人の至福の時間を邪魔する不逞な輩はどこのどいつだ? と唸りながら目を開ければそこには
確か教室でクラスメイトと一緒に昼食をとっていたはずだが、と不思議に思っている俺に対し。
「これ、あげる」
差し出したのは県外にある有名スパリゾート施設の入場券二枚。
行ったことがない俺でも昔からテレビでCMをバンバン流しているので存在は知っていた。
「何でこんなものを紫音が」
「お父さんがお客さんから貰ったらしいんだけど、使用期限見て」
入場券の表に印字された年号と日付は今月の数字。
なので現時点で残された期日は二週間以内ということになる。
「私、今月の休みの日は全部バイト入ってるし、このままダメにしちゃうのも勿体ないから。良かったら使ってよ」
「だからって何で俺? 他に適任な連中がそこら辺にいっぱいいるだろ」
それこそクラスの陽キャ共に渡せばいいだろう。
例え入場券の枚数が足りなくても、遊びの為にバイトしているようなあいつらだったら余裕でその分を用意するはずだ。
プールに一番無縁の男子高校生の俺に渡すとか正気の
「鈍いなぁ。セレンさんと一緒に行って来たらって意味。まだ一緒に遠出したことないんでしょ?」
「なんでお前がそれを」
「さぁ......どうしてかな」
思わせ振りな言い方をしなくても、セレンさん本人からの情報なのは簡単に察しがつく。
コミュ障気味な紫音を、短期間でスマホのメッセージアプリで毎日連絡を取り合う仲に
「二人って、まだ何となく間に壁みたいなものを感じてさ。外で裸の付き合いでもしてくれば、その壁が多少なりとも薄くはなると思うよ」
「裸の付き合い......言い方がおっさんくさいぞ。お前本当にJKか」
「だから人の好意は素直に受け取る。そういうところ、
それを言われると耳が痛い。
付き合いがそれなりに長いだけによくわかってらっしゃる。
「でもどうかな。スパリゾートってことは大人の陽キャ様方がうじゃうじゃ騒いでいる場所だろ。そんな邪教の
エルフの耳を隠せてもセレンさん、基本美人だからな。
光に引き寄せられた悪い虫達がたかってくるに決まっている。
「晴人、過保護過ぎてキモイ。晴人はセレンさんにこっちの世界で普通の生活を送らせたくないの?」
「いや、そんなことはない」
「だったら守ってるだけじゃなくて、もっと積極的にセレンさんにこの世界の魅力を教えてあげないと。おじさんに任されたんでしょ?」
――腐れ縁同級生にド正論を言われて何も言い返せねぇ。
「......最近のお前、なんか変わったな」
「......近くにいる人間の情けない姿を見たくないだけ」
なんとか捻り出した言葉に紫音は嘆息して切り返した。
俺は決して友達の多い方ではない。
でも本気で、本音で言ってくれる奴が一人でもいてくれるだけで充分だ。
「もうそろそろ私達の番ですね」
緊張と期待の入り混じったセレンさんの声色が俺を現実世界へと帰還させた。
ウォータースライダーの列に並び始めて20分程だろうか。
早いテンポで列はどんどん前に進んでいき、気付いた時には頂上の階まで辿りついていた。
できればもうちょっとだけ記憶の世界に留まって現実を逃避したかったが、時はもう遅い。
何でって......実は俺、高所恐怖症なんだよな...........。
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