第13話【うちの継母はJKたらし】

 30分かけてどうにか俺はおじさんの善意という名の暴力、改め昼食を完食することができた。

 カレーだけでなくデザートまで大盛りにされてしまうとこのあとの活動に支障が出るので、そこは絶対におじさんを止めるよう紫音しおんに念を押した。


 娘同様、いやそれ以上に紫音の父親は口数が少ない。

 加えて熊のような大きな体格にサングラス姿は初見の相手に圧倒的な威圧感を与えるが、実はとても優しくて穏やかな人。

 お店の外に飾ってある花は全ておじさんが選んで世話をしていると聞いた時はめちゃめちゃ驚いた。

 気の優しい力持ちが喫茶店のオーナー.......一応言っておくが、この店の窓は防弾ガラスでもなくロケットランチャー等の銃火器もない店内には存在しない......だろう。


「あの、今日の記念にみんなで写真撮りませんか?」


 三人で食後の余韻と談笑を楽しんでいると、セレンさんは言い出した。


「そんな恥ずかしいよ。第一お店にも迷惑だし、紫音だって――」

「......私は大丈夫だよ」


 構わないといった表情でぼそっと口にした紫音は、眠たそうな瞳を向けて俺の洋服の袖をつまんだ。


「え......カメラ嫌いなお前がどういう風の吹き回しだよ。まさかこの店、メイドさんとチェキのサービスでも始めたのか」

「うっさい黙れ。晴人はるとにだけチェキ代・五千円請求しようか?」

「どこのぼったくりメイド喫茶だ」

「では早速撮りましょうか」


 俺と紫音の他愛のないやりとりにクスクスと微笑んでスマホを取り出す。

 そこへいつの間にかカウンター兼厨房から出ていた紫音のおじさんがやってきて、無言で手を差し出した。

 これは撮ってくれるということだろうか。

 横目でその娘に確認を取ると、どうやらその通りらしい。


 セレンさんははにかむような笑顔に遠慮がちなダブルピースポーズで。

 紫音は見事なまでに無表情でテーブルに顎肘をのせ、隣の俺は腕組をして上目遣いでスマホに視線を置く。

 こういう陽キャな行為に慣れていないので、いまいちどれが正解かわからなくて落ち着かない。


 数秒経過してセレンさんのスマホのカメラから『カシャ!』という音が聞こえた。

 確認すると見事にぶれることなく三人が中心に収まっていた。

 セレンさんがおじさんに「次は一緒に撮りませんか?」と話しかけるも、照れた様子で顔を真っ赤にし、速足で自分の仕事に戻っていってしまった。

 ......おじさんのような人でも、美人に緊張することあるんだな。


 あまり長居するのも商売の邪魔になるので、写真を撮ったあと俺達は店を出ようとした。


「今日はごちそうさまでした。とても美味しかったです」

「......こんなおんぼろ喫茶でよければ、また来てくださいね」

「おんぼろなんてとんでもない。温かい雰囲気に溢れたとても素晴らしいお店で、是非また近いうちにお邪魔させていただきます。まだまだ食べてみたいお料理が沢山ありますので」


 扉の前まで見送りに来た紫音は、嬉しかったのか薄っすらとその表情に笑みが浮かんだ。

 たった一、二時間で氷の美少女(俺命名)紫音に心を許させるとは、流石はエルフ継母のセレンさん。年期が違う。


「晴人、こんないいお母さんに迷惑かけちゃダメだからね」

「言われなくてもわかってるよ。なんかお前、今日俺に当たり強くないか?」

「......そう? いつもどおりじゃない?」 

「お二人はいつもこんなに仲良しなのですね。宜しければ今度家にも遊びに来てくださいね」

「......ん」


 恥ずかしそうに下を俯く紫音に、何故か俺まで顔が熱くなる。

 そういえば付き合いはそれなりに長いのに、家に来たことは一度も無かったと思う。

 セレンさんと仲良くなったお礼に、今度招待するのもいいかもしれないな。



          ◇



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