第14話 (勇者視点)錆びた聖剣が直らない

 勇者ロベルト率いるパーティーは鍛冶が盛んな国『ルーベンス』を訪れた。ここには大勢の鍛冶師がいる。


 故に、ロベルトはこの聖剣の修繕をできる鍛冶師がこの国にいると思ったのだ。


(あの鍛冶師のロキが特別な鍛冶師なわけねーだろ! 過剰評価がすぎるぜ! あの程度の奴、世の中には無限にいるんだよ! あいつなんて、ありきたりでいくらでも代えが効くような、どうしようもない奴なんだ!)


 ロベルトは周囲の意見や評価などには耳を傾けず、ひらすらに自分に言い聞かせていた。そうやって乱れてきた心の平静を保とうとしているのである。


「……とりあえず、この国にいる鍛冶師にこの聖剣を直して貰おう。このままじゃこの俺様の実力が発揮できないぜ」


「な、なに言ってるのよ……別にそんな事しなくても。ロキが戻ってくるのを待てばやってくれるじゃない」


 セリカはそう言った。


「そうそう……他の鍛冶師に頼むと、お金取られるし……経済的じゃない」


 ルナリアにも非難される。


「う、うるせぇ! ロキが戻ってくるのには時間がかかるんだよ。あいつの故郷は遠いからな。そんなの待ってられるかよ!」


 ロベルトは叫ぶ。ロキがもう戻ってくる事がないという事実をロベルトだけは知っていた。いくら待っても戻ってくるわけがない。


「ふっ……あなたは何もご存じないのですね」


 ロベルトはフレイアに鼻で笑われた。


「な、なんだ? お、俺が何を知らないって?」


「聖剣エクスカリバーのような所謂、伝説級の武器を作れるのは限られた一握りの鍛冶師だけです。当然のように、その修繕もまた。盆百の鍛冶師では到底不可能な業です。ロキ様のような鍛冶師はこの国にも居はしないでしょう」


「ふ、吹かしてるんじゃねぇ! そんなわけあるかっ! いいから、とりあえず鍛冶師がいる鍛冶場に行くぞっ!」


 国内には多くの鍛冶場が存在していた。そこで武器や防具を生産し、店で販売する。それだけではなく、武器や防具の修繕などを受け付けている鍛冶師も多くいたのだ。

 

 ロベルトは適当な鍛冶場を見つけ、聖剣エクスカリバーの修繕を頼むのであった。


 ◇


「へっ……ここにするぜ」


「へい、らっしゃい!」


 キンコンカンコン! その鍛冶場には一人の鍛冶師がいた。忙しく武器や防具を作っているようだった。金属を叩く音が響き渡っている。


「何の用だ? 武器や防具を作って欲しいのか? それとも修繕して欲しいのか」


「修繕を頼みたいんだぜ」


「修繕だな……それで、何の武器を……」


「ああ……こいつだぜ!」


 ドン! ロベルトはカウンターに勢いよく聖剣エクスカリバーを置く。


「こ、これは……ま、まさかあの伝説の……」


 鍛冶師の男が震えていた。


「ん? どうしたんだ?」


 ロベルトがきょとんとしていた。


「詳しく見せて貰ってもよろしいでしょうか?」


「あ、ああいいぜ」


 鍛冶師の男は聖剣エクスカリバーを鑑定し始めた。


「お、恐らく……本物だ。間違いない。伝説級の武器なんて初めて見た」


「……な、なんだ! マジマジと見て何がしたいんだ!」


「恐らく……ではありますが、この聖剣エクスカリバーは本物です。偽物じゃない。正真正銘の伝説級の武器だと思われます」


「……な、何を言っているんだ。そんな事は俺様にとってはどうでもいいんだぜ」


「残念な事に腐食しているが……それでもこの剣自体は本物だ。一体、この聖剣はどこの鍛冶師が作られたのでしょうか!?」


 鍛冶師の男は興奮気味でロベルトに聞いてきた。


「だから、何言ってるんだよあんた……俺は別に鑑定を頼んだわけじゃないんだぜ。いいから、この錆びている聖剣を直してくれよ……『サンドワーム』に不運にもやられて、本来の性能を発揮できなくなってるんだぜ。なっ! 頼むぜ。鍛冶師のおっさん」


「直すなんてとんでもない……伝説級の武器を作れる鍛冶師は世界でも指折りなんです。当然のように、その修繕も……」


「な、なんだと! ……」


「ほら……だから言ったではないですか。無理な道理だとあれほど……はぁ」


 フレイアは呆れたような深い溜息を吐く。


「くそっ! あんたで直せないっていうなら、もっと腕の立つ鍛冶師を教えてくれ、そいつなら恐らく直るはずだ」


「む、無理だと思いますよ……」


 その後、ロベルトは幾人もの鍛冶師に当たるのであったが、結果は変わらなかった。この国中を探しても、伝説級の武器である聖剣エクスカリバーを修繕できる人物は一人たりともいなかったのだ。

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