第6話 (勇者視点) 新しく加入した剣聖がロキ目当てだった

勇者ロベルト率いるパーティーは『ローレライ』という街に移動した。そこの酒場で新たな仲間が加入する手筈になっていたのだ。


「……っと。この酒場だぜ」


 ロベルトは酒場の看板を指さす。


「ここだ。ここで新しい仲間と待ち合わせをしているんだ。あの鍛冶師のロキみたいな闘えもしない無能とは大違いの頼りになる仲間がいるんだぜ」


「……ねぇ。ロベルト。あなたなんかロキを目の敵にしてない? なんかあったの?」


 セリカにそう聞かれる。


「べ、別に何でもないぜ。あんな奴、この勇者である俺様にとっては眼中にないってーの。いいからそれより中に入るぜ」


 こうして三人は酒場の中に入っていったのだ。


 ◇


 昼間の酒場はガラガラだった。いたとしても昼間から酒を煽るような重度のアルコール依存者しかいない。いかにも浮浪者といった風体の男達だ。

 酒場の主な稼ぎ時は夜だ。昼間などまともに客がいるわけもない。


 そんな中、煌びやかな金髪をした美しい少女がいた。鎧を着て、剣を携えた凛とした少女。さびれた酒場にいるような人間ではない。彼女の存在は明らかに浮いていたし、ロベルトが仲介役となった冒険者ギルドから聞いていた情報と合致していた。


「あんたがフレイアか……。俺の名はロベルト。誇り高き勇者様だぜ!」


 ロベルトは自身を親指で指差し、名乗りを上げる。


「フレイア……あんたみたいな腕の立つ剣聖様が俺達のパーティーに入ってくれる事は実に喜ばしい事だぜ。リーダーである勇者として、あんたの事を歓迎するぜ!」


「……そうですか。あなたが」


 フレイアは勇者であるロベルトにはあまり関心がなさそうであった。


「……冒険者ギルドから聞いていた情報とは異なっているようですが。確か、パーティーは四人いると聞きました」


 四人、当然のように今いるフレイアは除いた数字である。


「あ、ああ……闘えもしない無能な鍛冶師なら……故郷でお袋が危篤になって飛んで帰っていったんだぜ」


 ロベルトはしどろもどろで答える。


「……そうですか。それは実に残念です」


 フレイアは至極残念そうに、溜息を吐いた。


「な、なんでだ……どうして残念なんだ?」


「腕が立つ鍛冶師があなた達のパーティーにいると聞いて、私は加入する事を決めたのです」


「な、なんだと……それはどうしてだ?」


「この剣を見てください」


 フレイアは剣を抜き、見せる。相当な名剣ではあるだろうが、既にボロボロになっている。


「私の剣にかける負担が少々重すぎたようなのです……。私に見合うだけの剣はなかなかにありません。しかし、腕の立つ鍛冶師であるロキ様の噂を聞きつけ、このパーティーに加入する事を決めたのです。彼なら私に見合うだけの剣を用意して頂けると……そう思ったのです。それが私の動機の一つです」


「へっ……へへっ。そうなのか……はぁ」


 まずい、とロベルトは思った。だが、それでもロベルトは頑なにロキの必要性を認めようとはしなかった。

 

 ロキが既にこの世にいないのはロベルトだけが知っている事実だ。厳密にいえばあの外道者(アウトロー)達もだが。本当はロキは生きているのだが、ロベルトは完全に死んだと思い込んでいた。


 だからロキがパーティーに二度と戻ってくる事がない事をロベルトだけは知っていた。


 ロベルトはそれでも平静さを何とか保っていた。


 鍛冶師なら他にもいるのだ。必要になったらまた雇えばいいだけという事。


 それよりロベルトは自身の有能さを見せつけ、ロキの存在が不要である事を証明したくなった。


「それよりフレイア……あんたは俺達の実力を知っておいた方がいいだろ? 俺もあんたの実力を知りたいんだ。ちょっと実戦で試させてくれやしないか?」


「……別に良いですが」


「だったら行こうぜ」


「どこに行くのです?」


「この近くにいるザハラ砂漠さ。そこにとんでもなく強力なモンスターが生息しているらしい。そいつらを相手に、俺達の実力を証明してやるぜ」


「は、はぁ……そうですか」


 こうしてロベルト達は酒場を出て『ザハラ砂漠』にまで移動していくのであった。



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