第3話 逃げ延びた先でブロンズダガーを鍛える

「はぁ……はぁ……はぁ」


 俺は脱兎の如く、ウォーウルフの群れから逃げ出した。情けない話ではあるが、武器も装備も道具(アイテム)も何もなかったのだ。逃げる以外の選択肢など俺にはなかったのだ。


 俺は障害物を見つけ、身を隠した。奴らは血の匂いを嗅ぎ分けて、俺を探している。俺の姿が見えなかったとしても、奴らの嗅覚は侮れない。俺は服の一部を破り、頭から流れ出る血を拭った。


 これでとりあえずは血の匂いを辿ってくる事はできないだろう。かといって、致命的な状況を脱したとはとても言えないが……。


「くそっ……なんでこんな事に、俺が何をしたって言うんだ」


 俺は鍛冶師として勇者パーティーの役に立っていた自負がある……。それなのにロベルトからこんな扱いを受けるなんて、いくら何でも理不尽というものではないか。


 いや、それが問題だったのかもしれない。どんな聖人でも誰からの恨みを買わないという事は不可能だ。ロベルトにとっては俺が役に立っていたというのが鼻についたんだ。そして、武器も装備も一通り整い、勇者パーティーの功績が不動のものになったこのタイミングで俺を用済みとして切り捨てた……。


 そんなところだろう。ともかく、気を取り直さなければならない。あいつを恨んでいたところで俺の状況は一向に改善されないのだ。どんな時でも前向きに、僅かばかりの光だったとしても、希望の光を見つける為に必死にあがかなければならない。


「……どうすればいいんだ。どうすれば……」


 今度、ウォーウルフと遭遇したらとても逃げ延びられる自身がない。それに動かないでじっとしていても食糧も何もないのだ。腹が減っていずれは餓死してしまう事だろう。


 俺は右手に一かけらの石を握りしめる。ちょうど、拳で握りしめるくらいのちょうどいい大きさだった。


 投石でもすればいいというのか……。俺のコントロールではとても当たる気がしなかった。当たったところで、とてもウォーウルフに対して有効なダメージは与えられないだろう。


 その時、俺は気づいた。自身が握っている石の成分を。間違いない……ただの石ではない。この石には銅の成分が含まれている。近くの壁を見やる。間違いない……。

 こいつは十分、武器に使えるだけの素材になりうる。


 この絶対絶命の状況を打破する、逆転の手立てはすぐ目の前にあったのだ。近くにありすぎて、今まで見えていなかった。


 俺には何もないと思っていた。だが、一つだけあった。俺は鍛冶師だ。鍛冶師としての能力にだけは俺は唯一自分に、自信を持てていた。


 この力を信じるより他になかったのだ。他に何もない俺だったけど、この力だけは……俺を裏切る事はないと信じている。


 俺は鍛冶師としてのスキルを発動した。壁から銅の要素のみを抽出し、銅の材料を作り出す。


「……よし」


 そして、その銅の素材を元に、俺はダガーを鍛えた。銅で出来たダガーだ。鍛冶師である俺は持っている『鍛冶』スキルを使用すれば、例え手ぶらだったとしても問題なく、武器や装備を鍛える事が出来たのだ。


「……完成だ」

 

 俺の手の中には、銅(ブロンズ)で出来たダガー。『ブロンズダガー』が握られていた。

 切れ味は問題なさそうだ。この武器があればやれる。手ぶらよりもずっと。


 心細かった俺の心の中に、頼もしい仲間ができたようなものだった。


 そしてこの『ブロンズダガー』の出番は間もなくやってくるのであった。

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『ブロンズダガー』

 何の変哲もない銅で出来たダガー。

 攻撃力+10

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