第2話  SS級ダンジョンに捨てられる

(アウトロー視点)


 黒い無数の影がSS級の危険なダンジョン『ハーデス』に忍び込んでいった。彼等は勇者ロベルトに雇われた外道者(アウトロー)達である。彼等は金さえ積まれれば何でもする連中であった。誘拐も麻薬の運び人も、当然のように殺しでさえも。


ロベルトは勇者という立場であるにも関わらず、こういった闇の住人達と裏で繋がっていたのだ。自ら手を下すわけでもなく、邪魔者であるロキを始末しようと試みたのである。


 外道者(アウトロー)達は地下迷宮(ハーデス)に入ると、崖から下を見下ろしていた。崖の下には深い暗闇になっていた。どれほど深い崖なのか、想像もつかない。普通に考えれば落としただけで即死しかねない。


「どうする?」


 男の一人が聞いた。


「決まってるだろ? 寝てるこいつを放り投げるのさ」


「……そうか」


「依頼人(クライアント)の話によると、あくまでも痕跡は残さないで欲しいらしいそうだ。こいつは自殺を目的としてこの地下迷宮(ダンジョン)に単身で潜入し、そして当然のようにモンスターに遭遇。それで食われちまいました……っていう筋書きが妥当な線さ」


 男は葉巻を吸っていた。そして投げ捨てる。


「……さて。やるか」


「……ああ」


「「「せーのっ!」」」


 男はロキが入った袋を投げ捨てる。ロキを袋詰めにして、ここまで持ち運んできたのだ。


「あばよ……坊主。お前に恨みはないが、これが俺達の仕事なんでな」


 ロキは暗闇の奥底へと飲み込まれていった。


「……さて。用事が終わったら逃げるぞ」


「随分焦ってるな……」


「ここはSS級の危険なダンジョンだ。あまり長いしてモンスターにでも遭遇すると命が危うい。金は大事だけどよ……それも命あっての物種だろうがよ」


「確かに……そうだな。もうここにいる用もないしな」


 こうしてロキを投げ捨てた外道者(アウトロー)達は地下迷宮(ダンジョン)『ハーデス』から逃げ帰っていったのだ。

 

 ◇


「ううっ……」


 俺は目を覚ます。


「……な、なんだ、一体なにがあったんだ」


 身体が重かった。見ると頭から血が流れている。そして、なぜかわからないが両手両足が袋のなかにずっぽしと入っていて、辛うじて頭だけが出ていた状態だったのだ。


「そうだ……俺はあの時、宿屋でロベルトと話をしていたんだ。それで、その後怪しい連中に襲撃されて、それで……」


 ここがどこかはわからない。だが、あの時俺達がいた街から近くに危険な地下迷宮(ダンジョン)があると話には聞いていた。だから連中が俺をその地下迷宮(ダンジョン)に俺を運んできて、そして遺棄したと思う方が妥当だ。


「……という事はここはそのSS級の危険なダンジョン、ってわけか」


 俺は何とか袋から抜けだす。特別拘束されていたわけでもないので、抜け出す事は難しい事ではなかった。


「うっ……頭が……それに全身が」


 相当高いところから落とされたのだろう。俺は全身に相当なダメージを負っていた。命を落とさなかった事が不幸中の幸いというところであった。まだ完全に命が助かったわけではないが。絶体絶命の状況下である事に間違いはない。


「「「「ウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッ」」」


 無数の唸り声が聞こえてきた。そして眼光が光を放つ。


「な、なんだ……」


 暗闇から姿を現したのは無数の狼型のモンスター『ウォーウルフ』だ。連中は血と肉の匂いを嗅いでここまでやってきたのであろう。当然のようにその標的(ターゲット)となったのは俺である。


 どうする? 考えるまでもない事だった。今の俺には何もない。装備も道具も。頼れる仲間も。


 俺は脱兎の如く逃げ出した。


 当然のように黙って見逃してくれるウォーウルフの群れではない。追いかけてくる。


 俺は残った体力を振り絞って、命カラガラ、ウォーウルフ達から逃げたのである。



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