第124話 いちごシロップ

「………っ」


 それを見た千葉は、かぁと顔を赤く染め、それを抑える為に顔を空に仰ぎ姿勢を正すと、


「立川」


「なに?」


「私さ、もう一つ言いたいことがあるんだけど、聞いてくれる?」


 改まった様子で、聞いてくる。


「ああ、なんでもとは言わないが」


「なんでもって言われなきゃ困るんだけど」


「…………なら、無理な事じゃなければ」


「無理かどうかは聞いてから決めて」


「それもそうだな」


 ゴクリと唾を飲む。

 鼓動は、花火があがるより遥かにスピードが速く、音も大きい。


「立川」


「なに?」




「……………好き」




「………うん…………俺もす―――!?」


 返事をしたその刹那、千葉の唇が重なって来る。


「んっ……………ん」


 数秒、スローモーションのような時が過ぎると、息を切らした千葉のプルっとハリのある唇は糸を垂らしながら俺の顔から離れていく。


「お前、なにして……………」


 口元を抑え、真っ赤になる俺は千葉の花火が反射する瞳と口元を交互に見る。


 だが、俺が動揺しているのもつかの間、千葉は俺の服を繰り寄せ、火照る体、浴衣の上から感じる柔らかい膨らみを押し付ける。


 そして、照れながらも真剣な眼差しを向けて言う。


「私、立川の事が好き…………」


 誰もいない場所で2人きりで見る盛大で煌びやかな花火。


 花火に照らされた千葉の顔はそれはもう真っ赤に染まっていた。


 多分、俺の顔も負けないくらいに赤いのだろう。


 誰もが羨むであろう青春のワンシーン。


 本当なら、俺もここで返事をしてエンドロールに入る所なのだが、俺の脳内には、

 響く花火の音と甘酸っぱいセリフ。花火に照らされる千葉の可愛く儚い姿。





 そんな甘酸っぱい青春は、口の中に広がるイチゴのかき氷シロップで中和された。

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