第123話 出会いは最悪だったけど

「俺はな、千葉。別に同情してお前に優しくしてはない」


「お、おう」


「本当は、こんなすぐ暴言吐いてきて人を変態と罵りビンタしてくるめんどくさい奴のめんどうなんかこれぽっちも見たくなんだ」


「っ…………ななんですって!」


「でも!」


「…………でも?」


「たまに優しかったり、可愛い所をなんだかんだ見せてくれるから、助けてたくなるんだ」


 鳴り響く花火の中、千葉に笑顔でそう言う。


「かわっ…………あ、そっ」


 プシューと頭から湯気を吹き出し、赤くなった顔を仰ぐ千葉。


「そう、そうゆう所も」


「あんた私をからかってるわけ!?」


「からかってないんだが!?」


 プクッと頬を膨らませ、千葉は怒鳴ってくる。


「もういい、理由は分かったから花火見ましょ」


 と、ムスッとしながら前を向く。


「不貞腐れんなって」


「不貞腐れてなんてないし」


「ならなに?」


「…………うっさい、花火の音が聞こえない」


「ごめんなさい」


 これ以上なにか言うと本格的に怒られそうなので俺も静かに前を向く。

 俺の言う事は終わった。あとは千葉からの言葉を待つのみ。


 氷見谷に言われた「千葉の言葉を受け取る」


 別に、多少勇気がいるが俺から言ってもいい。だけど、これは千葉から言わなきゃ意味がない。


「成長」氷見谷はそう言っていた。

 だから、俺は黙って花火を見る。


 夜空を何色にも照らす花火は俺達の顔をよく照らす。

 横に見える千葉の表情。真ん丸にしている瞳はキラキラと輝いており、口角は少し上がっている。


 本人に言ったら怒られるかもしれないが、「お姫様」という言葉がよく似合う。

 花火より、そんな横顔に見惚れていると、


「ねぇ、立川」


 前を向きながら、千葉は話掛けてくる。


「ん、なんだ?」


「花火、綺麗だね」


「……だな」


 だが、花火に見入ってるからかすぐに会話は終わってしまう。

 このひと時、過ぎて欲しいと思うし、このままで居て欲しいとも思う不思議な時間。


 進めば、俺達の関係も進む。そして、このままならずっと平行線、なにも変らない。


「この2か月くらいで色んなことがあったね」


「そうだなー、ホント色々あったわ」


「出会いは最悪だったけど」


「それはこっちのセリフだ…………しょぱな百合を見せられた俺の気持ちも考えろ」


「教室入って来たあんたが悪いんでしょ?」


「お前らが教室でシてるのが悪いんだろ」


「ま、出会いは最悪だったわね」


「そっからなんだ?お詫びとか言われて襲われかけるし、氷見谷の料理は上手かったし」


「ダイエットでプールにも行ったけど効果はこれぽっちもなくて」


「それはお前らが遊んでたのが悪い」


「ホテルにも監禁されて」


「あの時は危なかった、色々と」


「そ、そうね…………」


 と、千葉は顔を赤くする。


「お前の看病はするし、ロッカーには閉じ込められるし、体育倉庫では…………あ、なんでもない。熱中症ではまた看病させられるし」


「体育倉庫?それ私知らないんだけど」


「いや、それは忘れてくれ」


「…………まぁ、思い出しても迷惑かけてばっかだし、忘れてあげるわ」


「今、こうしてお祭りと花火にも誘われたしな」


「…………悪かったわね」


「どれもこれも、全部楽しかったからいいんだけど」


「え?」


 千葉は驚いた表情で俺を見る。


「なんだよ、その顔は」


 俺も、微笑しながら千葉を見る。


「あ、え、楽しかったとか言ってたから」


「ムカつくし、ウザいし、色々と我慢させられたけど、楽しかったよ。これがもし、

 氷見谷と千葉じゃなかったらここまで楽しく過ごせてはなかったと思う」


 心からの本音だった。


「だから、ありがと。千葉」


 二っと歯を見せて笑いかけた。

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