第121話 超大事だから!

「運んでくれて、ありがと」


「どういたしまして」


 背もたれに腰を掛けると、俺は肩の力を抜く。

 疲れた、流石におんぶしてあの階段を登るのは無理があったようだ。

 どっと疲れが回ってきた。


「あと花火まで何分?」


 息を整えながらそう聞くと、


「あと2分くらいで上がると思う」


 スマホを見ながら答える。


「結構ギリギリだったな」


「だね、運んでくれなかったら見れなかったかも」


「かもな~、最初に靴擦れのことってくれれば運ぶこともなかったんだけどな」


「…………それはごめん」


 皮肉たっぷりに言うと、千葉は申し訳なさそう顔を浮かべる。


「ま、ちゃんと見れるんだから結果オーライなんじゃない?」


 このまま機嫌を損ねてるのは、よくない。

 だから、すかさずフォローする。


「そうだけど…………」


「いいじゃん、来れたんだし花火楽しも」


「うん…………でもその前に質問」


「なんだいきなり」


 かき氷のカップを横に置くと、俺の方をじっと見てくる。


「前も言ったけどさ、なんで私にこんな優しくするわけ」


「っ……………またその話か」


 不意に浴衣の隙間から見える、赤いブラに気を取られながらも反応する。


「やっぱ考えてもおかしい。普通だったらこんなにしてくれない」


「いや、助けを求めてたりする人を助けるのは普通だと思うんだけど?」


「だったらなんで私の話を聞いた時泣いたの」


「………それは………」


 同情、いやそうじゃない。あんなに辛い経験をしたのに、みんなにその影も見せず学校に来ていること、氷見谷以外に誰にも明かせない辛さ。

 千葉の気持ちを考えると泣いてしまうのは必然だった。


「ほら!なんか理由があるんじゃん!」


「んな、別にいいだろそんくらい気にしなくて」


「大事!そこ超大事だから!」


「向きになっていきなりどうしたマジ」


 急にグイグイくる千葉に、少し引き気味になる俺。


「こっちにも色々理由があるの!なんでこんなに私に優しくするの!」


 千葉が顔を近づけてきた刹那、一発、空に大きな花火が上がる。


「うわ、あいつが言ってた通り超綺麗に見えるじゃん」


 目線より少し高いくらいに上がる花火。


 絵に描いたような光景が広がる。


「花火見てる場合じゃない!」


 と、千葉は俺の顔をグイッと掴むと正面に向かせる。


「花火見る為にここに来たんじゃないの?」


「ダメ!花火よりこっちの方が大事」


 真剣な眼差しでこちらを見る千葉。


「はぁ………これは言い逃れできそうにないな」


 ため息を吐く。


 千葉が、こんなにも聞いてくる理由を俺は知っている。

 それに、何故夏祭りと花火に誘われ、ここまで来たのか、すべて検討は付いている。

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