第120話 黙ってられるかド変態!

「早く、浴衣の上から持ちなさいよ!」


「ここで直そうとしたら体勢崩れるだろ、ちょっとくらい我慢しろ」


「我慢って!触られてる気持ちも考えたら!?」


「だとしたら、いつも目の前で百合が始まる俺の気持ちも考えたら?」


 特大ブーメランである。

 いつも目の前でアレが始まると、俺がどれだけ気まずいか分かってるのか?


「今だって、胸を押し当てられてる俺の気持ちを考えろ」


 ため息を吐きながら言うと、


「っ…………!!マジセクハラなんですけど!?」


「いや、今のは―――」


「あんた最初からそれ目当てだったってこと!サイテーなんですけど!?」


「冗談!今のは冗談だから!」


 暴れる千葉に、俺は必死にバランスを取る。


「冗談でも言っていい事と悪い事があるでしょうが!」


「今のは俺が悪かったから揺れるのやめろ!」


 完璧に失言だった。心の中に閉まっとけばよかったな。

 でも、この感触。口に出したくなるくらい幸せなんだよな。


 暖かく、少し突起の感じる柔らかいモノが背中を包み込む。

 最高の2文字でしか表せない。


「だったら早くそのスケベな手をさっさと退けなさいよ!」


「うっせ~な!我慢しろって言ってんだろ!?」


「黙ってられるかド変態!」


「黙ってかき氷でも食ってろ!」


 口論しながらも、俺は階段を登り始める。


「この変態……………」


 ブツブツ言いながらも、千葉はムスッとしながらかき氷を食べる。

 変態はどっちだよ全く。俺に言う資格ないからなお前。


「冷てっ……………首に落とすなよお前」


「あ、ごめん。水滴が落ちた」


「もっと工夫して食べろって」


「どうやってよ」


「普通に、顔を横に出してさ」


「無理言わないでよ」


「俺がちゃんと支えてるだろ、そんくらいしろよ」


「セクハラされるからヤダ」


「まだそれを言うか………………」


 どれだけさっきまでの事を引っ張るんだよ。もう忘れてくれ。

 それに、ちょっと顔を出して食べるくらい出来るだろ。赤ちゃんじゃあるまいし。


「って、話してたら…………着いたじゃねーか」


「あ、ホントだ」


 顔を上げると、ひらけた広場がそこにはあった。

 その真ん中にはベンチが一つ。

 見える夜景は氷見谷の言う通り一級品だった。


「とりま座ろう」


「だね」


 ベンチの方に移動し、千葉を降ろすと、俺も腰を下ろした。

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