第88話 ちゃんと働きなさい

「う、嘘じゃないよ~」


 指摘された千葉は、あからさまに目を逸らす。


「なら担任はその時なんも疑わなかったのか?」


「う、うん………特になんも言わなかったけど?」


「お前と氷見谷は学校で接点ないのに、いきなり仕事手伝うと言ってもなにも言わなかったと」


「さっきからそう言ってるじゃん」


「んなわけあるかアホ」


 嘘バレバレなんだよ。目が明らかに泳いでるし挙動もおかしい。


「で?本当はどうやって来た?」


「………………仮病」


 流石に言い逃れ出来ないと思ったが、小声になりながらも本当のことを言った。


「最初からそう言えや」


 別に仮病使ったからって怒るわけでもないのに。俺だってよく使うし。

 こう、素直じゃないよな千葉は。氷見谷も同じようなものだけど、種類が違う。


「2人とも、手が止まってるんですけど?」


 黙々と作業をしながら、氷見谷はこちらを見てくる。


「すまん」


「ごめん羽彩」


 怒られた俺達は、黙って作業を再開する。


「あと少しで終わるんだからちゃんとしてちょうだい。それにあと15分で次の授業始まるんだから」


「確かに、あと10分で終わらせないと間に合わないな」


「だから口より手を動かしなさい」


「………俺、仕事頼まれてる側なんだけどな」


「だから何よ、頼んで承諾したんだったらちゃんと働きなさい」


「……なんも言い返せないわ」


 だがしかし、言い方があるだろ。もっと優しく接してくれればこっちだってやる気が出るし、仕事もサクサクこなせる。

 あんな言い方されると気分も乗らなくなる。


 そんな事考えた所で、ちゃんと作業をしないと怒られるので手をきっちり動かす。

 あと俺の作業は、種目ごとの枠を作るだけ5分ほどで終わるだろう。


「じゃ、私終わったから先生に提出してきてそのまま授業行っちゃうわね」


 作業をしている中、氷見谷は資料をまとめて立ち上がる。


「おい、終わったのはよしとして俺達を置いてくのか?」


 ドアの方に向かおうとする氷見谷の背中に問いかける。


「私のノルマは終わったもの。あなた達ももうすぐ終わるでしょ?それにこれはすぐに提出しなければいけないものだから」


「手伝うって選択肢はないのか、お前」


「手伝ってあげたいのは山々だけど、遅れたら私に責任がくるから」


「自分の身が優先と」


「当り前じゃない。あなたもうすぐ終わるでしょ?心葉の手伝ってあげなさい」


 こちらに背中を向けながら手を振ると、教室を後にした。

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