第89話 人、来てね?

「人任せな…………」


 ちょっとくらい手伝ってくれてもいいだろ。俺が氷見谷の仕事手伝ってるんだから。

 本来はあいつの仕事なんだぞこれ。理解してるのかあいつは。

 それに、5分も10分も変らないだろ。


「羽彩、相変わらずの性格ね」


 クスっと笑いながら千葉は言う。


「学校の氷見谷だな」


「やっぱ人が学校に居るとあーゆー感じになっちゃうのよね、あと仕事の時」


「まぁ気が抜けないもんな」


「羽彩も色々頑張ってるからね」


「それは認めるけど、そのストレスというか溜め込んだものの発散の仕方を考えて欲しいよな」


「別にあんたに迷惑はかけてないじゃない?私が犠牲になるだけで」


「お前も喜んでシテるじゃんかよ。風邪の時だって俺が帰った瞬間ヤってたくせによ」


「……………なっ!なんであんたがそれを知ってるのよ!」


「部屋出た瞬間に声が聞こえて来たんだよ」


「そんな声出てたの」


「ものすごくね」


 あの声と音。AVでしか聞いたことない。エロというエロを詰め込んだ感じ。

 最高だけど、なんか複雑な気持ちだ。


「てか俺達に話をしてる余裕なんてないぞ」


「そうだったわね――――私はもう少しかかりそう」


「俺、すぐ終わるから手伝うよ」


「助かるー」


 と、手を動かし始める。

 定規でズレが無いよう均等に線を引き、枠を作る。

 単純作業だし、すぐ終わるが油断できない。これがズレたら一からやり直しだからな。

 息を止め、手がブレないように一直線に引いていく。


「よし、終わった」


 3本引いたところで、俺の仕事は終了した。


「終わったならこっち手伝いなさいよ」


 目の前で文字を書いている千葉は、プクリと頬を膨らませる。


「それが人に頼む態度なのか?」


「いいじゃない、羽彩よりマシよ」


「そうだけど、もっと態度で示せよ」


「…………お願いします」


 膨らませた頬を赤らめながら言った。


「あいよ、頼まれました」


 と、俺は千葉の分の仕事を貰う。


「んで、これを何すれば?」


「あんたは書いてある団長とかの名前にフリガナを振って。それで仕事は終わるわ」


「了解」


 一度しまったペンを取り出し、紙に書き始めようとすると、


「―――っ――ぁ――」「――――ぃ――――ぇ―」


 教室の外、廊下の奥の方から声が聞こえた。

 それも、クラスメイトの男子の声であった。


「なぁ千葉」



 俺は冷や汗を流しながら言う。

「なに?」


 手を動かしながら、返事をする。


「もしかして、こっちに人来てね?」

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