第56話 同じくらい

 惚気以外にも話すことがあって良かった。俺だけ話すことは不利だったからな。

 しかし、千葉は氷見谷の惚れた所、過去に聞いたような気がするな。うろ覚えだが。


 まぁ、これから話してくれるので静かに聞くとするか。


「私が氷見谷を好きなのは、優しいし、ちゃんと私の話を聞いてくれるし、人の心に寄り添えるの……………だから氷見谷の事が好き」


「大事な事だなそれは」


「正直、いや、あの事件があった時にさ、氷見谷がいなかったら私今ここに居ないかもしれないもの」


「養護施設とかって事か?」


「違う。もっと遠い所」


 そう言うと、千葉は天井へと手を伸ばす。

 天国………………あの世という事か……………

 氷見谷が千葉に与えた影響は大きい。心の傷を癒したものそうだし、色々と行動をしたのも。


 あの話を聞いた時から分かっていた事だが、千葉が好きになるのも必然的だと思う。


 千葉は愛を全く感じない環境で育ってきた。だからこそ、暖かい氷見谷にものすごく懐いたのだろう。


「…………氷見谷は、あたしなんかを気にかけてくれて。大切に思ってくれるいい人なのよ」


 胸に手を当てると、瞳を閉じて言った。

 その言葉に続けて、


「それはね、あんたも同じよ?立川」


 目を開けると、俺の方を見て小悪魔に笑った。


「俺?なんだいきなり」


 突然振られた話に、俺は少し動揺する。


「あんたさ、私の話聞いた時、泣いてくれたでしょ?」


「そうだな………」


「あんたもさ、人の為に泣いて、心を遣える人なんだなって、いい人なんだなって思ったの」


「それは……………ありがと」


 俺は、それを特別な事だとは思わない。人の心を持っている人は大体俺と同じような反応をするだろう。


「だから……………」


 千葉は静かに微笑むと、


「好きよ」


「え?」


「羽彩のことも好きだけど、あんたの事も好きよ」

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