第32話 立川くんと言えば………

「マジで英語の担任意味分かんないんだけど~」


「あの人は当てにしちゃダメよ。自分で勉強しないと点数は取れないわ」


「授業の意味ないじゃないそれ!」


「卒業する為に必要よ」


「出席日数なんてクソくらえよ」


「心葉、口が悪いわよ」


「……………ごめん」


「素直でよろしい」


 30分ほど経過し、落ち着いた私たちはコーヒーを淹れ直し、仲睦まじく雑談をしていた。


 私の膝の上には心葉。服が涙で濡れていたので制服から私の部屋着へと着替えている。


 白のショートパンツに、イラストがプリントされているパーカー。

 身長が私の方が10センチほど高いからダボダボで、でも可愛いからよく着こなしていた。


「私は学校に行くのも嫌なのに、ただでさえ男子がいるって言うのに………」


「うん。それは知ってるけどさ………前よりはマシでしょ?」


「えぇ、氷見谷のおかげでね」


 最初、あの事があってから一週間。心葉は学校に行けなかった。それどころか、その半分は下部屋からも出てこれなかった。

 私も心葉のもとに寄り添って、学校には行かなかった。


 怖くて足が竦む、立てない。一日目はベッドからも出られなかった。

 でも、説得していくうちに心葉は心を徐々にだが開いていった。


 学校へ行きやすいように、私は仲良くない心葉の友達にまで声を掛け,

話をでっちあげて男から心葉を守るようにまで言った。

心葉の友達も快く協力してくれ、翌日には家にまで迎えにきてくれて学校に行くことへ成功した。


 そこからは、段々と普通の生活に戻って行き、ちゃんと学校に行けるようになった。


「大変だったのよ?心葉の友達を説得するの」


「だって関わりないし、そもそも好きじゃないでしょ?私の友達のこと」


「確かに、好きなじゃないわね。でも感謝はしているわよ?心葉のために動いてくれたからね」


「氷見谷がいなかったら、私は今、どうなってたか分からないわ」


「立川くんにも会えなかったしね」


 立川くんと言えば…………………


「そういえばさ、なんで見られた時、最初に心葉が立川くんを止めに行ったの?」


 いつもだったら、私に任せて自分は後ろに隠れている所だが、この時、心葉が真っ先に立川くんの元へ走って行った。

 今思えば不思議で仕方がない。


「あいつは……………なんか大丈夫だって思った、からかな」


 コーヒーの入ったマグカップを両手で持ちながら言った。


「ただ単に、見られたのが恥ずかしかっただけじゃなくて?」


「それもあるけど……………一目見て、なんか大丈夫だって思ったの」


「立川くんの事を?」


「うん、私たちを見てた時の目、他の人とは違ってた気がした…………」


 マグカップから出る湯気を吹きながら、頬を少し赤らめた。


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