第30話 やっぱ優しいのね
「え!?そうなの!?」
千葉は驚いた表情をすると、俺と氷見谷を交互に見る。
俺は、チーズケーキを食べながら、
「あ、うん。終わったって言えば終わったな。氷見谷から話聞いたし」
「なんだよ~、それなら私ケーキ買ってきた意味ないじゃない!」
「いえ、ちゃんと意味はあったわよ」
「どんな?」
「それも内緒よ」
「えぇ~また!?」
口をあんぐり上げた。
「こっちにも事情があるのよ」
千葉の頭に、氷見谷は頭を重ねた。
肌の温もりを感じてるのか、千葉はなんとも幸せそうな表情を浮かべている。
いつもなら、氷見谷の事大好きなんだなー、くらいの気持ちで見ているのだが、あの話を聞いてからだと考えさせられるものがある。
どれだけ、氷見谷が千葉の心の支えになっているかが目に見えて分かる。
この千葉の表情、一生この幸せそうな顔が絶えないことを祈ろう。
「俺、ケーキも食べ終わったから帰るわ」
荷物をまとめ、そう言いながら席を立つ。
「じゃぁねー……………あ、その前にケーキ代」
俺の前に手を出す千葉。
「ケーキは私が出すわ、家に呼んだのは私達だし」
その手をそっと抑えながら氷見谷は、
「私、立川くんを玄関まで送っていくわ。心葉、新しくコーヒー淹れて待っててちょうだい」
「なら私も玄関までいくわよ」
「コーヒー冷めちゃたしさ、私は心葉とケーキを食べながらあったかいコーヒーが飲みたいんだけどなー」
「しょ…………しょうがないわね~」
一緒に飲みたいと言われ折れたか、千葉は嬉しさと不満が混ざった顔をしながらキッチンへと向かった。
「私達も行きましょ」
「お、おう」
俺達も玄関へと向かった。
靴を履き、ドアの前に立つと、
「今日はありがとう。色々と」
氷見谷からお礼を言われた。
「俺はなんもしてないよ…………ただ話を聞いただけで」
「聞いてくれただけでありがたいわよ、心葉も嬉しいと思うわ」
「だといいな。あいつにはこれ以上苦しい思いはして欲しくないからな」
「フフっ………やっぱ立川くん、優しいのね」
口元を隠しながら、小さく微笑んだ。
「茶化すのはやめろ…………じゃ、俺は帰るから千葉の事、頑張れよ」
「えぇ、後で2人で話すわ。その時、立川くんに伝えたことも言っておくわ」
「そうしてくれ。くれぐれも泣いたことは言うなよ」
「それは言って欲しいっていう前振り?」
「違うわ!」
「心配しなくても大丈夫よ。言わないわ、多分」
「その多分が怖いんだが…………」
「本当に言わないから、安心して帰りなさい」
「……………はいよ」
小さく笑うと、玄関のドアを開ける。
「それじゃ、また学校で」
「ええ、また」
俺を見送る氷見谷の顔は、少し安堵の表情を浮かべているように見えた。
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