許されない技術
バブみ道日丿宮組
お題:愛と憎しみの吐息 制限時間:15分
許されない技術
吐息をかければ、身体は崩れ落ちた。バラバラに散らばるパーツは私が死なない限り溶けることはない。つまり腐敗しないコレクションのできあがり。
博物館にまた飾るものが増えて満足。これでお客さんもさらに増えるだろう。いろいろな思考を凝らして氷細工を作っては見てはいるものの。やはり吐息で壊れるおもちゃには愛を持てない。もう少し粘るくらいの維持を見せてほしいもの。
「ま、無理だからしょうがないね」
崩れ落ちたかつて暴れまわった猛獣は吠えることも、牙を剥いてくることもない。ただの造形品になってる。つんつんとつついても冷たさーー生きてたという実感はえない。
これが数分前に出来たとは普通のお客さんには判別はつかないだろう。トリックアート。一般的に私の作品はそう呼ばれる。
溶けない氷に閉じ込められたかつての生物たち、植物、その他もろもろは興味の域を超えるようだ。趣味が莫大な利益となってはもう止めることはできない。
「……」
かつての恋人は、浮気に浮気を重ねた。耐えきれない憎しみのあまり踏み潰しもはやかけらとなって何処かに流れていってしまった。あれを元に戻すことは不可能。
いかに強度を誇る生物であっても氷点下の中ではある生物を除けば、ただの氷細工。叩けば割れて、壊れてしまう。
「……ふふ」
あの時の感動は忘れられない。
こんなにもキレイなものがまだこの世界にあるなんて私は知らなかった。
それも愛と憎しみに満ちた恋人が氷になって砕け散った姿だというのだから、心底自分が気色悪い女だと思った。何も殺すことはないじゃないか、何も実験の成果を彼で結論づけることはないじゃないか、様々な感情は浮かんでは消えて、失ったものの大きさに最初は吐息が止められなかった。
けれど、ある一点を超えてから私はもうどうでもよくなった。
それはたまたま彼の一部を持ち歩いてた時だ。
『何の原石ですか、それは?』
と、見るからに怪しいヒゲオヤジに声をかけられ、ただの氷ですと答え……全てはそこから始まった。
今では私が作った何かの一部を身に付けてる人が増えてる。ネット販売も繁盛し、もはや誰が悪で誰が正義なのかわからない状況になってる。
「……」
ここまで一緒にやってこれたのも散らばってるヒゲオヤジのおかげ。
「感謝してますよ、でもダメですよ。タネばらしはマジックでも面白くないですから」
踏み潰すと、氷の感触だけがして私以外誰もいなくなった。
許されない技術 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます