異世界への夢

バブみ道日丿宮組

お題:君の王子 制限時間:15分

異世界への夢

 夢世界の相手を現世に召喚できればいいことはない。あとは中に入れたりしたらと、

「……違うなぁ」

 流行りのVRで体験しても、やっぱり現実と違和感がある。別世界では確かにあるけど、決められた行動が相手も場所も指定できないし、こちらも決められた行動しかできない。

 これでは彼女の願いを叶えるなんて意味がない。

 いや……これでも彼女は満足するかもしれない。いつまでも病院で閉じこもってる彼女に外の世界を体感させるには十分かもしれない。

 でも、それだけじゃ彼女が好きな王子様の世界、王子そのものが現れたことにならない。

「……」

 猶予は少ない。

 彼女に残された時間はわずかしかない。


「ねぇ、今日どうしたの? 表情暗いよ?」

 病室で考えごとをいつからしてたのか、彼女のか細い指が僕に絡んで意識を現実へと戻した。

「ごめん、せっかくいい話を持ってきたと思ったんだけど、やっぱりいいかなって思ってさ」

「そうなんだ。あっ! こないだ持ってきてくれた小説と漫画面白かったよ」

 そういって、彼女はテーブルの上に置かれた本に目を向ける。

「もう読んだのか、はやいな。僕なんて一冊一ヶ月もかかるってのに」

「ふふ、伊達に学年トップの成績はとってなかったよ」

 それに、

「ここは暇だからね」

 うつむいて話す彼女の言葉に僕は言葉を返せなかった。

「あぁ気にしないでね、君は悪くないからあたしが病室でやることがないだけだからさ」

 僕の雰囲気を察してか彼女はすぐになんでもないようにはにかんだ。

「大丈夫、大丈夫だから」

「……ごめん」

 彼女の手が僕の手を握ってくる。本当は僕が彼女を不安にさせちゃいけないのに……なさけない。

「うん、そうだ。やっぱり許可は取れたからVR今度持ってくるね」

「ほんと!? テレビで見てて凄く気になってたんだよね。小説とかにもたくさん出てきて死んでも死にきれない! 生霊になってさえやってやるって思ってたくらいなんだから」

「はは、ホント強いな」

 震える彼女の手は気持ちに嘘をついてる証拠。だから僕は、

「生霊になるなら、僕につけよな。君ほどじゃないけど、勉強頑張って色んな場所で色んなものをみるから」

「うん、VRも楽しそうだけど、期待してるよ」

 潤んだ雫は見なかったことにして、僕は最近学校で起きた話題を話す。

 そうしてやがて、彼女の手の震えはピタッと止まって、明るい笑顔へと変わってた。

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異世界への夢 バブみ道日丿宮組 @hinomiyariri

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