第76話 顛末。
事の顛末を語ろう。
あれは二日前のこと…………、いや、六万日と少し前だったか……。
いや冗談だけど。エルシャがダイするゲームは流石に有名だから私だってネタくらい知ってる。
さて、事の顛末だが、色々あるが要約すると「勝った! 第三部完!」だった。
…………いやコッチは冗談じゃない。マジで気が付いたら第三部完状態だったんだ。
あの日、みっともなくギャン泣きしてライカに縋った私は、ライカの「かてるよ?」って宣言でポカーンとしてる間に、ライカが全て終わらせてしまった
ライカは私の涙をぺろぺろした後、私を連れてビーストキングダムに舞い戻るとすぐに城へ行き、お城にある『なんか王様が国民に顔を見せつつ手を振る用のバルコニー』から国民に呼び掛けて、城の前に大量の民を集め、その観衆の中ライカは選定試練の結果を待たずに現王位を継承した事を宣言。
現王位の継承とはつまり、ガラドイラードが持っていた『選定試練前の王位』であり、『今回の選定試練の結果で得られる王位』では無く、『選定試練が終わり次第次期国王へと譲られる王位』のこと。
そうライカが宣言すると、私が隠してた【シークレットイベント・隠された簒奪】がクリア判定になって、だけどクリア時に明かされた肝心の報酬欄が何故か『任意』になってたんだ。
報酬が任意ってなんだよバカヤロウ。
そう思った私は運営に恨み節をこぼそうとするが、城の前に集まった国民の大歓声に不意を打たれて驚いているうちに、ライカが追加で国民に宣言する。
『みんなが好きな、シリーハントはもう、いない。きんじゅつで、…………きえちゃった。いまのライカは、きんじゅつでかえられた、別のそんざい』
システム的にそうなってるのか、ライカの声は小さくても良く響いた。
シリーハントがもう居ないと言われた国民は戸惑い、静まり、静寂に染まった国民たちはその時、確かな困惑に揺れていた。
『ライカのなかに、シリーハントの、むねんがあった。それは、ついさっき、…………晴らされた』
一拍の後、再びの大歓声。
みんなが慕ったシリーハントの無念が晴らされた。それはつまり簒奪の王が討たれた事に他ならない。
たとえシリーハントがもう居ないとしても、シリーハントの無念が正しい形で晴らされたのなら、それは国民にとって寿ぐべき事だった。
『シリーハントの、こころは、まんぞくして逝った、と、おもう。そのむねんを、晴らしたのは、ライカのあるじ様と、なかまたち』
そう言って国民とは別のベクトルで困惑する私をバルコニーから国民に見せたライカは、ちょっとドヤ顔をしていた。
『あるじ様は、ライカと、シリーハントのため、命をかけて、あくらつの王を、うった。…………かわりに、あるじ様は、とても困って、しまった』
そうじゃない。討伐の代わりじゃない。私が私の判断でライカを大事にしたかったんだ。私のわがままで、ライカが負ける瞬間なんて見たくなかっただけなんだ。
そう言い募ろうとした私を遮って、ライカは国民に勅命を出した。
『じゅうおうライカの、名のもとに、めいじる。…………みんな、ライカのあるじ様を、…………たすけろ』
ライカは言い切った。
よく分からないうちに、よく分からないまま私はビーストキングダムで一番の賓客になってしまった。
『あるじ様は、みんなのこころの、欠片、あつめてる。だからみんな、ライカのあるじ様に、こころを、よこせ』
下手したらガラドイラードよりも悪辣の獣王扱いされそうな無茶を言ってのけるライカ。心を寄越せってなんだよ。闇堕ちしたラスボスか少女漫画のイケメンしか言わないぞそんなセリフ。
だけど、その宣言に際した国民たちはむしろ、喜び勇んでとんでもない量の【ビーストハート】を後のライカと私に差し出すのだった。なんでやねん。
つまりは、それが報酬だったんだ。【シークレットイベント・隠された簒奪】の任意報酬とは、要するにライカと国民たちの任意で報酬量が変わる形式だったのだ。
あれだけ悩んで負け確に涙した私は、突然チェスの盤面をひっくり返して格ゲーで決着を付けるような暴挙を目の当たりにした。
『それと、もうひとつ。じゅうおうライカの、名のもとに、めいじる。じきこくおうは、あるじ様に、いちばん気にいられて、いちばん、こころの欠片、くれたものにきめる』
ライカは言った。『あるじ様に貢げ。一番貢いだ奴に王位をくれてやる。ライカはあるじ様と行くから王位は要らん』と。悪辣の王では無いけど暴虐の王ではある。マジかよライカ。やりたい放題じゃねぇか。選定試練は国の誇りって設定はどこ行ったんだ。
『……こんかいの、せんていしれんの、終わりまでに、どうか、ライカのあるじ様、を、たすけて、…………ほしい』
もしかしたら、元々このイベントとは、私たちプレイヤーじゃなくて誰か他の国民を玉座へと擁する仕様だったのかも知れない。
プレイヤーは獣じゃない。獣王にはなれない。なら特定のキャラクターにまつわるクエストやイベントを超えて、そのキャラクターを獣王へと推す。
私はライカを選んだ。ライカを獣王にした。そしてライカは、国民の誰かを獣王に推す。
本来なら、選ばれる獣王は玉座に至るためのクエストやイベントが仕込まれていたのかもしれない。それがライカの獣王化ルートが成立した為に形を変えて、ライカを一番助けた者が玉座へと至らる内容になった。
ライカを助けるとは、つまり私を助けること。
『…………さぁ、みよ。これがライカの、あるじ様、なり』
ライカの最後の宣言と共に、公式イベントPVがビーストキングダムのあらゆる場所で魔法の窓的な感じで放送され始めた。
それは恐らく、時空の歪みさえも直せるとされた獣王の力の片鱗。--っていう設定。
ガラドイラードが失っていたその力は、選定試練が終わるまでの間に正統な権利を有するライカが王位を継ぐことで蘇り、ライカはその力を使って『これがライカのあるじ様だ。よく見ろ。素敵やろ? だから【ビーストハート】寄越せや』って、莫大な力をめちゃくちゃ小さい事に使って
みんなが見た。国民もプレイヤーも、みんなが見た。
私がイベント開始直後に兎の海で溺れてたシーンから、笑えるくらいに少ない報酬でペティちゃんの願いを叶えてるシーンも、ペリアさんの胸に拳を当てて任せろと言ったあの時のことも、凄まじい暴威に晒されながらもワイルドハントを説得し続け、最後には抱き締めて受け入れた瞬間も、自分の身ごと簒奪の王を討ち果たせと絶叫したシーンも、その後噴水で涙する私も、駆け付けたライカに抱き締められて涙をぺろぺろされたシーンも、全部が良い感じに編集されて公式PVとなって勝手に、無許可で私の意志とは関係なく、強制放映されていた。
私は逃げた。
ふざっ、ふざけんなぁッッ! なんでギャン泣きシーンまで使われてんだよ!
私は顔を真っ赤にしながらロアに引きこもった。初心者の街だからだ。きっと被害が少ない。そう思って、だけどイベントに勝つ為、時折ライカに引き摺られてビーストキングダムに訪れては、国民からの
そんな生活を続けるうちにランキング首位を、次点にトリプルスコアの差をつけて見事入賞を果たした。
私は赤面してそれどころじゃなかった。
国民は獣王の力で見たPVで、私の『私ごと殺れぇええ!』のシーンに感動したらしく、その死を持って私に何かしらの不利が発生した事も理解して、それはもう大量の感謝と共に貢物をくれた。
私は赤面した。
ちなみにイベントが終わって五日たったが、今のビーストキングダムを治めているのはペリアさんだ。
ペリアさんは元々私からの好感度も高く、逆も然り。今回の王位問題に私を直接巻き込んだ本人だったこともあり、本人がギャン泣きした私への罪滅ぼしにありったけの【ビーストハート】を貢ぎ、他の国民にも説得して回り、イベントNPCでありながらイベントクエストを真顔で周回してアイテムを集めることまでして見せた。
曰く、申し訳なさ過ぎて死にそうだ。感謝の気持ちでこの身が張り裂けそうだ。感情がめちゃくちゃで表情が固まってるが気にしないでくれ。
との事。
今はもう普段のペリアさんに戻ってるが、当時の真顔固定ペリアさんスーパーモードの気迫は凄まじく、しばらくペティちゃんがずっと涙目で可愛かった。
今は獣王ペリアとしてこの世界とビーストキングダムを、滅びに向かうような無理が発生し無い形で繋ぎ続け、ペティちゃんはペティ姫になっている。
そう、今回のイベント限定エリアだったビーストキングダムは、なんと今後もこのまま利用できるんだそうだ。
ケモナー御用達の天国に何時でも行けるなんて幸せすぎる。ありがとうペリアさん。出来ればその力を持って私のPVが無許可放送された過去も消しておくれ。
流石にイベントが終わったあとはメニュー画面からの移動は出来ず、初めてビーストキングダムへ行く人はロアの街の噴水からのみ移動出来て、その他の人はどの街からでも登録してあるビーストキングダムの噴水へとファストトラベルで移動可能となっている。
ことの顛末は、そんな感じ。
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