第52話 チョロい。


「待てやテメェェェエエッッ!」

 

「追って来るなぁ!」

 

「ざけんじゃねぇぞゴルァアアアッッッ!」


 稀に見るポイポイのガチギレである。


 いやほんと、悪いと思ってる。


 せっかく集めたレイドメンバーなのに、自分のリアフレが突然裏切ったとか、今すぐアイツがログアウトして鈍器を持って自宅凸して来ても、私は文句言えねぇ。……いやごめんやっぱ文句くらいは言うよ。法は守れ馬鹿野郎。


 それでも私は、ヒイロに回復してもらいながら、ヒイロの支援砲撃にも助けられながら、ワイルドハントの攻撃を程々にくらいながら食いしばりで生き残り、カウンターバーストとペインバーストを乗せた砲撃でプレイヤーの邪魔をしながら逃げ続ける。


 私の痛覚設定って最大値だから、普通に死ぬほど痛いんだけど、ゴブリンにリンチされた時よりはマシだ。


 あの時の方が痛覚設定緩かったとしても、覚悟も無く延々と蹴られ続けるより、覚悟して程々に食らう方がだいぶマシ。我慢出来る。


 さて、ここからどうするか。


 ポイポイだけならまだしも、初対面で素性の知れない相手には話せない。いくらゲーム素人の私でも、初対面のプレイヤーがどれだけ信用出来るかなんて知っている。


 何より、今回のイベントはリアル報酬付きなのだ。漏れた情報がどんな結果を招くかなんて、予想し切れない。ゲーム内の人間関係とリアル現金百万円を比べた結果ゲーマーがどんな動きをするかなんて、私が知るわけないんだ。


 ワイルドハントを守りつつ、ワイルドハントからの攻撃を避けたり食らったりする合間にチラッと見る。……ポイポイだけじゃなくて集まったプレイヤー全員がキレてるのを確認した。やっべぇ。


 いやぁ、どうしようかな。マジで、困った。振り切れない。


 仲間に情報を漏らせない以上、私はどうにか彼らをまいて、ワイルドハントと二人きりになる必要がある。


 悩んで居ると、ヒイロが腕の中で私をポンポン叩いた。


 ☆ペット・ヒイロがファミリアハートを発動。プレイヤーに干渉します。許可しますか?

 

 ☆ペット・ヒイロがファミリアハートの効果でプレイヤー・キズナの操作権限を望んでいます。許可しますか?


 …………なぬ?


 ファミリアハート。確かヒイロと私が融合するスキルだっけ。


 使ったこと無いけど、アナウンスを見る限りヒイロが私のキャラクターを操作したいと申請してるのだろう。


 ヒイロは頭が良い。たぶん今の状況で私が望むことを理解して、その解決策もヒイロは持ってるんだと思う。


「…………ヒイロ、何とかできる?」


 聞くと、まるで「任せろ!」とでも言うように、ヒイロはふんすっと鼻息を荒くした。


「ふふ、じゃぁお願いね」


 ☆ファミリアハートが発動します。


 スキルが発動すると、私の腕の中に居るヒイロが、ふわっと光の粒子になって溶け始めた。


 その光が、私の中へと溶けていく。私と一つになっていく不思議な感覚を覚えると、段々と私の体の感覚が無くなってきた。


「あ、あー。うん。よし、ちょっと制限があるけど喋れるね」


 ヒイロが完全に私の中に入ると、私の手に薄桃色の毛が生えてケモ度が上がり、靴の中にも違和感が発生した。そっちも毛が生えたのだろう。


 そして、私が喋ってないのに、私が勝手に喋り始める変な感覚を味わう。


 …………もしかして、ヒイロが喋ってるの?


「そうだよ、あるじ様。これMP五千も使うくせに一分しか持たないからお話し出来なくて残念だけど、あるじ様のお願いは叶えてみせるからね」


 私の心を読めるのか、ヒイロがお返事をくれる。


 あまりの事に頭が真っ白になって、ヒイロはそんな喋り方なんだとか、私の事あるじ様って呼ぶんだとか、喋れて嬉しいとか、もう無理だめ可愛い尊いやだ死ぬしゅきぃぃいとか、益体もない事しか頭に浮かばない。


「えへへ、僕もあるじ様が大好きだよ。……じゃ、行くね!」


 頭が真っ白なのに桃色妄想、そんな矛盾した脳内だが、ヒイロが何かをする事だけはわかった。


 -クリティカルエッジ起動。

 -クイックリッパー起動。

 -フルカウンター起動。

 -ペインバースト起動。

 -クレセントヴォーパル起動。

 -クレセントヴォーパル起動。

 -クレセントヴォーパルソード起動。


 私とヒイロのクレセントヴォーパルを二重起動までしたヒイロは、そのまま振り返りワイルドハントの顔面を薙ぎ払った。


 うぇえええっ!? ちょっとヒイロ!? 私はワイルドハントを必要以上に攻撃するつもりなかったんだけど!?


「ヘイト取られたら困るから特大のを入れただけだよ、あるじ様。こうすれば、この速度で走るワイルドハントに大きな攻撃を当ててヘイトを奪い返すなんて出来ないよ。それに上級レイドボスだしね? これくらいはかすり傷さ」


 ほぇええっ、私いまヒイロとお喋りしてりゅぅぅうっ!?


「それと、今から大声だすからビックリしないでね?」


 状況と混乱で役に立たない頭の私に、ヒイロがまるで微笑みかけるような声でそう言ったあと、本当にとんでもない大声を出したのでめちゃくちゃビックリした。


「エルフっぽいどぉぉぉおおおおおおおおおおっっ!」

 

「なんだぁぁァアアアアアアアッッッ!?」

 

「シークレットだァァァッ!! 今は引けぇぇぇぇえ!」

 

「ざっけんなゴルァァアアアッッ! 詳しく話せゴルァアッ!」


 ヒイロが私の体で私の声で、ポイポイと怒鳴りあってる状況が面白すぎて逆に冷静になってきた。


「後でエルフの進化条件教えてやるから引けぇぇぇ!」


 冷静になったと思ったんだけど、なんかヒイロがとんでもない事言い始めてまた混乱する。


 え、まじ? まって? ヒイロそれアレだよね運営側の秘匿された情報とかじゃないの勝手にバラしちゃダメじゃね大丈夫なの運営に消されたりしない?


「マジかよ良しみんな一旦落ち着いて冷静に対処しようそうしよう仲間を信じてワイルドハントはキズナに任せてみようぜ信じる心って大切だと思うんだ俺は常日頃からそれを忘れずに信用と信頼をこの胸に抱き続けて居たいと思う」


 困惑する私をよそに、ヒイロの発言で馬鹿なエルフスキーが爆釣して仲間を説得に回る。


 おや、お前、それで良いのか…………?


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