第51話 離脱。
このイベントの目玉の一つでありながら、イベント期間が残り二日という終盤において、私は初めてその獣を目の当たりにした。
私たちの存在に気が付いて、私たちを睨み付けるその巨大な獣は、ただただ美しかった。
ライオンみたいな体型で、イヌ科のような耳と尻尾で、竜のような角が生えてて、なのに真っ白でふわふわ。目が赤くてまるで宝石。アルビノの特徴を持つその肉食獣は兎にも見えた。
「…………キズナ? どうした? 始めるから配置につけよ?」
対峙するその姿を見て、あまりにも美しいその姿を見て、私は呆然と立ち尽くした。
靱やかな毛の一本から、銀の模様が浮かぶ爪の先まで、どこもかしこも全てがただただ、ひたすらに美しい。
心配するポイポイに声をかけられて、私は今自分がやるべき事を思い出し……、
私はやるべき事を、切り替えた。
「……ごめんポイポイ。私抜ける」
「は?」
◇
☆プレイヤー・キズナがパーティを離脱しました。
◇
既にレイドボスとの戦闘領域に入り、ワイルドハントは今にも私たちを襲おうとしている。
そんな中で突然の離脱宣言と行動に、ポイポイが慌てた声を出す。
「ちょ、キズナッ!?」
「重ねてごめん。許してとは言わない」
-クリティカルエッジ起動。
-クイックリッパー起動。
-ロングピアース起動。
-クレセントヴォーパルソード起動。
-ムーンライト発動。
-クレセントヴォーパル起動。
とくに示し合わせた訳でもなくて、私は隣に立っているポイポイの心臓に短剣斧を突き立て、呼応したヒイロが魔法スキルをブチ込みながらクレセントヴォーパルで首を
「ガッ--!?」
流石にレベルカンストのトップが一人である。手応えはあるのに、食いしばりが発動するエフェクトすら見えなかった。フルカウンター無しではHPを削り切れないんだろう。近過ぎてAGIによる加速も乗せきれて無い。くそ、やっぱある程度のAGIを確保出来たらSTR上げるべきか? 私魔法職なんだけどなぁ。
いや、フルカウンター込みなら削り切れるって考えも希望的観測かもしれない。ポイポイはただの上級プレイヤーじゃない、攻略最前線に居るトッププレイヤーの一人なんだ。
殺しきれなかった私は即座にプレイヤー達から距離を取った。いきり立つワイルドハントを気にせずそちらへ駆け込む。
私がプレイヤーと敵対していようと、ワイルドハントにとっては私も立派な敵である。当然の結果として、ワイルドハントは私に使ってその太い腕を薙ぎ払う。
来る事が分かってる攻撃なら避けられる。
私はヒイロを抱えてワイルドハントの腕の上ギリギリを意識して飛び、スレスレで攻撃をわざと掠らせてから着地して、また駆け出す。
-不屈発動。
良かった。例の不屈が使えない必殺技じゃなくて。
「何してんだよキズナァッ……!」
「ごめんねポイポイ。みんな」
いやマジでごめん。ホントにごめん。私もまさか、こうなるとは思って無かったんだ。
-ラビットフルハート連続起動。
不屈は無敵時間五秒。その間にヒイロから回復を受けて、ワイルドハントの背後を目指す。
-クリティカルエッジ起動。
-クイックリッパー起動。
-ロングピアース起動。
-フルカウンター起動。
-クレセントヴォーパル起動。
-クレセントヴォーパルソード起動。
-自刃発動。
-不屈発動。
私は逃げながら仕込み靴にありったけのスキルを乗せて、仕込み靴のナイフで自分を突き刺した。
クイックリッパーもロングピアースも、武器での攻撃に上乗せなので武器判定の仕込み靴でも使う事が出来る。
また消し飛んだ私のHPは不屈によってギリギリに押し留められ、フルカウンターによってフルカウンターとカウンターバーストに使うリソースを溜めるマッチポンプを始めた。
今度から、戦ってない時でもリソースは常に満タンにしておこうと決意する。
-クリティカルエッジ起動。
-カウンターバースト起動。
-ペインバースト起動。
-クレセントヴォーパルソード起動。
-マジックショット発動。
「キズナァアッッッ……! てめぇマジで何してんだよッッ!」
「マジでごめぇぇんッッ! 後で説明するからぁ!」
私は謝りながらプレイヤーを攻撃すると言う暴挙に出つつ、困惑するプレイヤーをよそに仕込み靴でワイルドハントを斬りつけてヘイトを奪い、その敵意を私ただ一人に向けさせてからガン逃げを始める。
本来なら短剣斧の先から魔法の弾を吐き出すだけのスキルが、カウンターバーストを乗せたせいで極太ビームみたいな魔法攻撃になっている。
そしてそのビーム砲を元レイドメンバーの足元に向けて発射して、私とワイルドハントを追いかけようとするプレイヤーを妨害、足止めする。
「キズナァァァァァァアアアッッ!!」
いやホントごめん。マジでごめん。ガチで私も予想外なんだコレ。
だって誰も思わないじゃんね? 『レイドボスを倒しちゃダメ』だなんて。
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