第37話 独走のデメリット。



 ☆


  □ビーストキングダムの王は強くなければなりません。玉座を狙うライバルに力を見せつけましょう。

 ・イベント期間中、【ビーストハート】所持数が劣る相手からの決闘を断る事が出来なくなります。決闘に勝利すると【ビーストハート】入手可能。


 ☆


 相手を見て、地形を覚え、自分を知る。護身の基本、その心構え。


 -クリティカルエッジ起動。

 -クレセントヴォーパル起動。


 見るからに上等な鎧を着た、見知らぬスラッシャーが振り下ろした剣を半身になって避ける。剣は餌、踏み込みは囮、本命は右の足!


 踏み込んで、薙ぎ払われる相手の足を利用して、小さく軽いこの体を利用する。軽く浮いて芯を外す。迫る脚に手をかけ、下段を蹴られるように誘導したら力を利用して飛び上がる。


 勝負は一瞬、幼く短い脚をしならせて首に叩き込む蹴りは、最後に残った相手のHPを消し飛ばした。


 ☆勝者プレイヤー・キズナ。

 ☆通常エリアに移動します。転移場所を指定しますか?


 クソが、クソが、クソが!


 忘れてた。うっかりしていた。


 このイベント、【ビーストハート】の所持数が多いプレイヤーは、少ないプレイヤーからの決闘申請を断れないルールがあった。完全に忘れてた。


 PKルールの方ばかり気にして、まさか自分が序盤からトップを独走するなんて思ってもみなかったから、完全に思考の外に置いていた。


 今、私はエルオンの全プレイヤーから、決闘申請を絶対に断れない『ネギを背負ったカモ』なのだ。


「転移はロアに」


『転移実行します』


 恐らく最前線に居るはずのプレイヤーが血眼になって私を探している。


 最初に挑んで来た奴は最初っから溜めてたフルカウンターで初見殺しした。


 次に挑んで来た奴はペインバーストの痛覚効果で泣いてる所をハメ殺した。


 三人目はヒイロがクレセントムーンを使って相手にデバフを与えたあと、カスダメを当てまくって三日月の雨を呼びまくって初見殺し。


 四人目はヒイロにファミリアハートを使ってもらって爆増したAGIで初見殺し。完璧に首狩りが決まると食いしばりが発動しないらしい。


 五人目はヒイロの回復スキル連打して不屈の無敵時間中にカウンターバーストを撃って、フルカウンターだと勘違いして防御系の切り札を切った相手にカウンターバーストを連打して初見殺し。


 技と戦術を見せる度に的確な対応と対策を打ち立ててくる廃人共は、ついに六人目でまともに戦わなくてはならなくなった。


 おかげでイベントアイテムも集まったし、トッププレイヤー達をジャイアントキリングしたから経験値もお金も潤沢に貰えて、イベント開始時点でレベルが三十二だった私は今レベル四十一まで上がっている。


 アホなのか。どんだけ襲って来るんだコイツら。


 このまま元の場所に出たらすぐに飛んでくる決闘申請を断れないので、私は一旦ロアに逃げる事にした。


 ロアには基本初心者しか居ないし、流石に少しは休めるだろう。


 掲示板をちょっと見てみたら、チート兎をぶっ殺せって内容のスレッドがめちゃくちゃ賑わっていた。


 多分私の居場所もここで共有しているのだろう。


「欺瞞情報流そうにも、私一人じゃマンパワーが足りないし……」


 結局、逃げるのが最適解だった。


「新種族でステータスが高くて良かった……」


 あとヒイロがめちゃくちゃ強くて良かった。ビックリした。強くなってたのはイベント始まる前の一週間で良く知ってたけど、まさかここまでとは思ってなかった。


 決闘にペットを連れ込んで数の優位を取れるテイマーのアドバンテージを活かさなければ、流石に嬲り殺しにされていただろう。


「名前が簡単には分からないゲームでも、私だけはうさ耳のせいで即バレするからなぁ」


 ロアに転移した私は、とりえず戦闘が完全禁止になる飲食店に入り込んで休憩する。


 基本的にPKではなく決闘であれば、街中でも申請して専用エリアで戦えるのだが、飲食店やショップなんかのお店の中では、トラブル防止の為に決闘申請そのものを禁止していた。


 これでひとまず休めるだろう。


「もう初見殺しは使えないし。レベルもステータスも足りないのに、装備品の恩恵って奴が思ったよりデカいし……」


 壊れ種族かと思った半兎人だが実際はそんな事なかった。


 防具の恩恵を受けられないデメリットが思いの外大きく、私は自分の弱点を思い知らされている。


「状態異常か……」


 防具によって毒耐性や麻痺耐性などの恩恵を得られない私は、その手のスキルに無防備だった。


 レベル差によるステータス負けは種族のおかげで何とかギリギリ張り合えていたが、すぐに対策を立てて襲ってくる廃人共は情報が揃うほどにその脅威を増すだろう。


「こっちも対策で耐性スキル入れたいところだけど……」


 ポイポイが言っていた、スキルスロットが有限だからクリティカルエッジは候補から外れやすいって言葉を思い出す。


 たしかに、こんな状況で対策スキルまでスロットに入れなければならないなら、少しでも火力の高いスキルを選ばなければならないなら、燃費は考慮に入らないのだろう。


 私の種族の強みは何かと言えば、極振り時のみ上級プレイヤーに抗える一点突破ステータスだ。


 私は今のところAGI極振り。極振り至上主義って訳じゃなくて、単純に私のキャラクターと一番噛み合ってるステータスがAGIなのだ。


 私のキャラクターは夢と希望を乗せたせいでロリキャラ。身長が百二十のちびっ子。そんな存在にリアル準拠なゲームシステムを積んだこの世界でSTRとかVIT積んでもそこまで大きな力にはならない。


 いや、数値的には普通に大きな力になるんだけど、このゲームは物理法則もダメージに関わってくる。軽くて小さい私のキャラクターにVITを積んでも衝撃を殺せない。攻撃の重さをモロに食らってしまうのだ。具体的に言うと吹っ飛んで衝突ダメージと落下ダメージの追撃が入ったところをまた吹っ飛ばさせるって無限ループも有り得る。


 STR極振りしてもそこまで大きい効果が望めない。パワーキャラの特性を活かしたいなら武器もやっぱり大きい物になる。その武器の大きさと重量を使って敵を圧倒するのに、私の大きさでは武器の大きさに制限をかけてしまううえ、小さいから相手を上から押し潰すような武器の使い方が出来ない。武器重量を活かしきれないのだ。


 だからこそAGI。職業的にはINT振れやって言われそうだけど、AGIなんだよ。


 AGIに振ってしまえば、私の軽さも大きさも武器になる。


 このゲームは重さも攻撃力に変換出来る世界だ。それはつまり慣性も乗ってくれるって事だから、走って殴ればSTRを補える。


 小さくて軽いから吹っ飛びやすいってデメリットも、そもそも当たらなきゃ良いんだ。そしてAGIを伸ばすとロリキャラの歩幅が少なくて足が遅いデメリットを直接的に解消できて、解消したならデメリットはメリットに変わる。


 なにが言いたいかというと、AGI最高。


 VIT? あんなのクソだよクソ!(風評)


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