第33話 キズナ流。



「まぁこんな感じで、中学生時代に大学生の男三人相手取って殺しかけるような奴が、弱い訳無いんだよなって話し」


「いや、だから関係無くない? あんな害虫と一緒にしたら、いくら雑魚いうえにケモくないトレント君だって流石に可哀想だよ」


「これよ。これが俺のリアフレよ。ちなみに、他にもいくつか似たような事件があったりするんだなコレが」


「完全に修羅じゃないか」


「にゃんにゃんの怒りを思い知るがいいぉ〜☆」


 なんなんだよもう!


 害虫三匹を狩り殺すのとゲームでモンスターと戦うのは全然違うじゃん! 必要なのは駆除実績じゃなくて戦闘経験でしょ!


「ていうかなんでそんなに動けるぉ?☆ 普通の中学生の女の子が大学生三人相手に動けるのは普通じゃないぉ?☆」


「いや別に普通じゃないですか?」


「いやいやいや絶対に普通じゃない」


「ラノベみたいにお家が道場だったりするんだぉ?☆」


「いえ全く。ごくごく普通の一般家庭です」


「…………こいつの祖父二人がちょっと普通じゃないんだけどな」

「なんて?」


「やっぱりラノベだぉ?☆ なろう系なんだぉ〜?☆」


「いや違いますって。ほらポイポイが変なことばっかり言うからぁー! 私がなろう系って言われるじゃぁん!」


 誰がなろう系か。


 いやホントに違うのだ。アレだよ。私がおじいちゃんに習った護身術だって、別に武術って訳じゃ無いんだよ?


 護身用具とか、常に身の回りにありそうな物を使って、いかに危険を退けられるか……、って感じの心構えみたいな物が中心で、催涙スプレーとかあったらどうやって使うのが効率的かとか、護身用スタンガンの上手い使い方とか、スマホのライトは意外と目潰しに有効だとか、普通のOL向け護身術講座みたいなので習える内容だよ。


 実際、ちゃんとあるんだよ? 護身用アイテムをただ持ってるだけじゃ、いざって時に使えないから、その正しい使い方と効率的的な運用を教えてくれるインストラクターの教室みたいなの。


 いやホントだって、私が習ったのは護身術だ! 攻性武術じゃない!


「嫌だ嫌だ! 私はなろう系主人公とか言われたくないんだ! ほんとに『実は凄い武術を習ってたのに勘違いで自己評価が低いやっちゃいました系主人公』とか言われたくないんだ! 私は違うぞ! 普通のJKだ! おじいちゃんに習ったのは普通の護身術だ!」


「…………ボールペン一本あったら成人男性圧倒出来る護身術を普通とは言わないんだよなぁ」


「やめろやめろ! 追加で変なこと言うな! 私はなろう系じゃない!」


「その話し聞きたいぉ☆ 気になるぉ〜☆」


「…………そっか。『殴り合い』も『喧嘩』もした事ないけど、『制圧』とか『排除』とかはお手の物なのか。…………え、これで無自覚だったの? なろう系じゃん」


「やめろぉぉぉおッッ!」


 ほんとに違うんだ!


 父方のおじいちゃんと母方のおじいちゃんにそれぞれ別の護身術をちょっと教えられただけなんだ!


 護身術って言うのは心構えなんだ! 私は気持ちの在り方と護身のコツを教わっただけで、古の武術とか習ってないんだ! 本当だ! 信じてくれ!


「祖父が普通じゃないってのは?」


「こいつのじいちゃん、父方の方が東北のマタギ……、つまり猟師みたいな人で、母方のじいちゃんが元戦場カメラマンなんですよ」


「マタギは分かるけど、戦場カメラマン?」


「戦場カメラマンってマジで写真撮るしか出来ないと普通に死ぬらしいんで、ガチの戦場で生き残る術っていうか、素人が生き抜くコツみたいなのを溜め込んだ人だったんですよ。キズナはそれを護身術として習ってて、父方のじいちゃんも山の中なら無敵の仙人って感じ人なんですよ。山とか森の正しい歩き方、疲れない体の動かし方、獣の追い方と逃げるコツとか、そう言うのも護身術としてこいつは習ってます」


「おまえホントにやめろー! リアバレはマナー違反だぞー!」


 ちくしょう! 好き勝手言いやがって!


「なんだよ! 山の正しい歩き方とかコツなんて特別なもんじゃないじゃん。森ガールとか流行ったじゃん! 普通にハイキングとかトレッキングする人なら身に付けてる知識じゃん! 山で動物の痕跡探すのとかは普通じゃないかも知れないけど、それでも猟師って職業は一般のものだぞ! なろう系じゃないぞ!」


「いやまぁ、言われてみれば?」


「ちょっと珍しいくらいだぉ?☆」


 そうなのだ。ちょっと珍しいくらいのことだ。いる所には普通に居る。そんな事でなろう系扱いされてたまるか!


「そうなんですけどね。その二人の護身術をキズナの中で融合された結果、化学反応でキズナ流武術になってんですよ」


「適当なこと言うなー! なんだよキズナ流武術ってバカヤロウ! お前マジでぶっ飛ばすぞっ!」


「実際そうじゃん。戦場で生き残る知識と心構えに、野山で動き回れるだけの経験と体幹、僅かな痕跡から獲物を辿れる集中力と観察眼。全部融合したら武術になっちゃったって、じいちゃん達爆笑してたじゃんか」


「やめろー! そんな簡単に流派なんて立ち上がるかバーカ!」


 あんなのは長い歴史の積み重ねによって洗練された技と経験と知識の結晶なんだぞ!


 孫が祖父と触れ合っだけで自然発生してたまるかクソが!


「うぅヒイロー! ポイポイが私を苛めるんだァ〜」


「人聞きの悪い」


「事実だばかぁー……、私はなろう系じゃなぃい……」


 ヒイロを抱きしめると、慰めるように前足で頭をポンポンしてくれる。優しい好き。結婚しよ?


「なんだよぉ……、攻撃が来るって分かってるんだからよく見て避けるだけじゃんかよぉ……。私変なことしてないよぉ……」


「いやモーション分かりづらい攻撃も普通に初見で避けてたじゃん」


「んだよぉ……。そんなの、護身の心構えの基礎だぞぉ……。被害にあってから『まさかこんな目にあうなんて』じゃ遅いから、リスクヘッジとリスクマネジメントを徹底するだけじゃんかぁ。世の中の事件事故や不審者の登場に前兆予兆なんて無いんだからな。自分で先読みして避けないと護身にならないんだぞぉー……。怪しかったらリスクを回避する、当たり前だぞぉ……」


「…………え、聞くだけなら割りとマジで普通の護身の心構えっぽいじゃん」


「参考になるぉ〜☆」


 騒ぎ疲れてへちょっと潰れながらヒイロに癒される私。


 なんだよ心構えっぽいって。ぽいじゃなくて心構えなんだよ。さっきから護身術は心構えだって言ってるじゃん。人をなろう系呼ばわりしやがってぇ……。


「トレントはその場から動けない。なら『動けないまま攻撃出来る』と考えて予測するだけじゃん……」


「……言われてみればそうなんだけどさ」


「それを完全にやって見せちゃうからキズナ流なんだよなぁ」


「まだ言うかぁ。もう良い。ポイポイお前秘蔵のエロ本の隠し場所を掲示板に書き込むからなぁ」


「やめて? マジでやめて?」


 ふん。もう遅い。既に書き込んだわ。


 もう休憩は良いだろ。次行くぞ次! 私はイベントで勝ちたいんだ。


「もう良いもん。ほら、つぎいくぞぉ!」


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