第30話 酷いルールだ。



 先にアイテムを用意出来る資金力を考えれば、やはり最初にポイポイから言われた『一番時間使った奴が勝つ』って言葉の意味が浮き彫りになる。


 普段からこのゲームに費やした時間がゲーム内通貨の総量として如実に現れる。


 私が自分でアイテムを取りに行ってる間に、トップランカーはお金を出すだけでそれらを手に入れて別の作業に時間を使える。


 本当に、絶望的な差である。


「あとはそうだな…………。イベントの効率予想とスケジュール管理が出来たら、今回は餌アイテム準備する他にレイドに向けて消耗品確保するくらいだし、レベリングか?」


「それなら、モンスター説得の練習をしながらレベリングとかで良いんじゃないか? 移住させたらリポップ減っていくって書いてあるし、複数の狩場を確保するべきだしな。候補を今のうちにピックアップした方が良いだろう」


「そうだな。まずイベント始まったらリポップが減る前にこっちでアイテム確保して、フリーフィールドのリポップ率が下がり始めたらイベントリエアに入ってクエストか?」


「でもでも、最初からクエストの方が効率良いかも知れないぉ?☆」


「そりゃもちろん、始まってみないと分からないけどな。でもリポップ率が下がっていく、つまりパイの奪い合いが発生する仕組みにしてあるなら、相応に旨味があるはずなんだよ。予想だと、今回のイベントで一番アイテムが稼げるのがレイド、次にモンスターの移住、最後にクエストだな。PKルールに関しては正直オマケのお遊びだろ」


「……そうなの? いっぱい持ってる人倒せばたくさん手に入るんでしょ?」


「キズナ、お前今俺のレベル分かるか?」


「は? そんなの分かるわけ……」


 あ、そうか。


「そう。このゲームって頭の上にキャラネとかレベルが表示されない仕様なんだよ。だからパーティを組んでパーティ画面に表示させるか、フレンドに登録してフレンドリストを確認するか、本人に直接聞くか、コミュニケーションを取らないと相手のレベルが分からないんだ。でも、最初からレベル知ってる様な知り合いにイベント狙いでPK仕掛けたら普通に関係終わるだろ? だから基本的にレベルの分からない相手を狙わなくちゃいけないのに、相手のレベルが自分以上じゃないとドロップしないし、自分より低かったら普通にキルペナ付くから、実質無理!」


 とんだ落とし穴である。


 え、イベントとして公式が発表したルールなのに、こんな実質無理とか存在するの? 期末試験の引っ掛け問題かよ。タチが悪いじゃんね。


「なんでこんなルールあるの?」


「そりゃもちろん、本職のPKのためだろ」


「……あ☆ 普通にPKしてたらポロッと落ちるかもってことかぉ?☆」


「そゆこと。要するにPKルールの方は『格上倒したら確定ドロップだけど相手の強さが分からないから実質ガチャ』なんだなコレが」


「うっわ運営バカヤロウかよ…………。私みたいな初心者が引っかかるじゃないか」


「そもそも初心者はPKとかしねぇんだよ」


「だぉ☆」


 ちなみに、PKとはプレイヤーキルする人の事、またはその行動の総称なんだってさ。ポイポイに聞いて勉強した。


 …………待てよ?


「ねぇ、私ってさ、進化種族でそこそこステータスが高いのにレベルが現在十六のキャラなんだけど、そんな私のガチャ排出率ってどんなもんだと思う?」


「…………いや、一瞬、おん? って思ったけど、止めといた方が良いぞ」


「なんで?」


「まず単純にキズナのステータスが足りない。種族的にステータス高くてもレベルが伴ってないから普通に無理」


「そこは腕でなんとか。リアル準拠なんだからやろうと思えば殺せるでしょ」


「いや、殺せるか否かはおいといて、そもそもこのルールだとPKは止めた方が良いぞ。エルオンってさ、他のゲームに比べても何故だか異様にキルペナが緩くてPKしやすいゲームなんだが、運営がPK行為を推奨してる感じが若干ある訳よ」


「ふむ」


「よーくPKルール見てみ? PK行為を誘発するためにわざと作ってある致命的な穴があるんだよ」


「…………どこ?」


「………………どこだ?」


「チョコ分かったぉ☆ これレベルが高い人ほど損するぉ☆ PKだけイベントルールで戦えるのに襲われた方は通常ルールだぉ☆」


「へ? ……あっ、高レベルプレイヤーは襲われやすいルールの癖に、このルールだと返り討ちにしてもイベントアイテムはドロップしないのか!? 襲う側はキルペナ気にしなくて良いのに襲われる側はキルペナ回避するのに気を使わないとダメなんだコレ! え、あれ? じゃぁやっぱりレベル低い私って挑み得じゃないの?」


「問題点はチョコさん正解だけど、キズナは零点だな。考えてみろよ。こんな致命的な穴がわざと残されたルールを前にした高レベルプレイヤー達が、なんの対策もしないと思うか? キルペナ付かなくても殺されたら俺たち普通にデスペナ付くんだぞ?」


「…………そっか。PK有利なのは最初から分かりきってるんだから、ガチガチに対策されるのか。そして私達が返り討ちに遭ってデスペナ食らったらアイテム集めに支障が出るし」


「そゆこと」


「だぉ☆」


 まったく酷いルールだ。


 このゲームに限らず、MMORPGだとプレイヤーがプレイヤーを殺すとキルペナルティと呼ばれるある種のデバフが付いて、どんな理由であってもプレイヤーが死亡したら一定時間デスペナルティと呼ばれるデバフが付くお決まりがある。


 もちろんペナルティが無いゲームも存在するらしいけど、有る方が多いんだそうだ。そしてゲームごとにペナルティの内容も異なる。


 キルペナルティを略してキルペナ。デスペナルティを略してデスペナ。


 キルペナの内容は、一人殺した時点でレッドネーム判定が付くだけなのだが、このレッドネーム判定の内容こそが皆の言うこのゲームのキルペナである。


 レッドネーム判定を持ったまま死ぬと所持金の半分とインベントリの中身がランダムで一つドロップするようになり、経験値取得量とアイテムドロップ率にマイナス補正。さらにデスペナの内容と持続時間が倍になる。


 さらに殺せば殺すほど経験値取得量とアイテムドロップ率のマイナス補正と所持金のドロップ金額が増えて行き、一度でもNPCにレッドネームである事がバレると指名手配されるので、レッドネームを解消するまでNPCが運営する施設や街をまともに利用出来なくなる。


 解除方法はめちゃくちゃ死ぬ事


 死ねば死ぬほどレッドネームが薄くなって行き、最後には解除される。


 NPCにバレなければ割りと何とかなるらしいのだが、一度でもバレたら全力で死にまくって解除しないと相当辛いことになると聞いた。


 それでもレッドネームになった時点で問答無用で街から追い出されたり、最初から何故かNPCに嫌われてたりするゲームよりは軽いペナルティなんだそうだ。


 取得経験値が減るのは重いペナルティだと思うけどなぁ。


 そしてデスペナの方はそう難しい話しは無く、所持金が一割消し飛んで一時間全ステータスが四割ダウンする。


 死んだ時に消し飛ぶ一割の所持金は、PKされた時のみドロップ扱いでPKの懐へいくが、基本的に殺されてもアイテムはドロップしない。


 ただPKする側がPK専用の職業だった場合、無理やりドロップさせるスキルとかが有るらしいので、安心は出来ない。


 キルペナとデスペナについてはこんな感じで、要約するとPKは程よく殺して程よく自殺なり仲間内で殺し合うなりしていれば結構自由にPK活動が出来るので、他のゲームに比べてもめちゃくちゃペナルティが緩いゲーム扱いされてるんだそうだ。


 以上、青空教室でポイポイから学ぶPKとペナルティ講座でした。


「んじゃ、チョコさんとガスキーはまだしもキズナはまだ金も無いだろうし、必要アイテムの収集と狩場のピックアップを兼ねてレベリングに行くぞー」


「おけーい。って言っても、私レベル低いからそんな遠く行けないけどね」


「でもうさ耳さん新種族で強いんだぉ?☆ フィールドボス倒してエリア更新しないんだぉ?☆」


 チョコさんがコテンと首を傾げて聞いてくる。そう言われても、種族が強いのと私が強いかは別問題な訳でして。


「んー、ぶっちゃけまだ草原と森しか行ったことないんで、自分が強いかどうかは分からないんですよね。今の私なら通常攻撃だけでゴブリン一撃なんですけど、『ゴブリン一撃で倒せるんだぜ!』って、別に強くは無いでしょう?」


 このステータスなら誰でも出来そうな事を出来たからって、私が強いことにはならないと思う。


 拳銃持ったら誰でも強いけど、じゃぁ同じ装備の本職に勝てるかって言われたら普通に無理だし。


「確かにレベル十六あったら、種族が人間でも……、出来なくは無い、のか?」


「……だぉ〜?☆」


 まぁ、それでも同レベル帯の種族人間と比べたらステータスが馬鹿みたいに高いのは間違いないんだし、私が強いかは自信ないけど、少なくとも弱くは無いはずだ。


 でなければ、イベント入賞なんて出来っこないし。


「いや、大丈夫。キズナが弱い訳ないから。とっととエリア更新しちまうぞ」


 そんな私の気持ちをよそに、何故か私の強さに対して私より自信満々なポイポイが居た。お前は私のなんなんだ。


「どういうことだぉ?☆」


「ま、見れば分かりますよ。ほら、さっさとフィールドボス行きましょ」


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