第29話 使った時間が正義。



「それで、私たちは何をすれば良い? 私も色々ゲームのセオリーとか調べて来たけどさ、流石にこれは内容が濃すぎてどこから手を付けて良いか分からない」


「チョコも分かんないぉ〜☆」


「分かんないチョコたん可愛い……」


「古参だってコレは戸惑うと思うぞ。それでもやりようはあるけどな」


 ポイポイが言うには、このイベントに限らず一定の期間中ずっとアイテムを収集する系のイベントでは、一番大事なのがタイムスケジュールなんだそうだ。


「めちゃくちゃな話しだけど、レベル制を採用してるゲームってのは結局のところ、一番時間使った奴が勝つんだよ。このイベントだって初心者に対する救済はあるに決まってるけど、それでもランキング上位に初心者の名前が並ぶ事は基本的に無い。ほぼ絶対と言っていいくらいに無い。このゲームに大量の時間を費やしてレベルを上げて、ステータスっていう絶対的なアドバンテージを持ってる奴が有利なんだ」


「……それ、結局レベル十六の雑魚は上位に行けないって事じゃね? ポイポイ喧嘩売ってる?」


 いや言いたいことは分かるよ。


 色々調べたしSNSのおかげで専門用語とかチラホラとインプットされてるとは言っても、私はゲームの素人だ。


 そんな素人の私でも、レベル制のゲームでは費やした時間がとてつもないアドバンテージなのは理解出来る。


 物凄く単純な話し、現実で銃弾を見てから避けれる達人と武術のブの字も知らない素人がこのゲームに居たとして、レベル一の達人とレベル百の素人なら基本的に素人が勝つ。


 レベル一の達人がアニメのように超人的な技術を持っていたとしても、レベル一のステータスで放つ攻撃ではレベル百のステータスの防御を貫けないのだ。私みたいな頭のおかしいビルドならまだしも。


 もちろん、どれだけ差があっても固定で一ダメージは出せるゲームの方が多いらしいから、達人が素人の攻撃を全て避けて自分の攻撃を百万でも千万でも当てれば理論上は勝つ事が出来る。


 ただ、それでもレベル一のステータスではレベル百のAGIに絶対勝てないんだから、真っ直ぐ逃げられるだけで勝てなくなる。そして遠くからレベル百のスキルを使って薙ぎ払えば良い。


 レベルもスキルも、基本的に費やした時間が多いほど育つし、スキルなら種類も豊富だろう。


 なんか私は緊急メンテナンス明けたら知らぬ間に大量のスキルを手に入れてたけど、普通はそんなミラクル起きないわけで、大多数の人はたくさんの時間を費やしてスキルを集めて育てて行くのだ。


「まぁ不利なのは否定しない。レベルが高い方がアイテム集めも絶対に有利だからな。ただ勘違いしないで欲しいのは、『一番時間使った奴が勝つ』とは言ったが、『一番強い奴が勝つ』なんて俺は言ってねぇって事だ」


「つまり、どう言うことだぉ?☆」


「要は、レベルも強さも足りないなら、レベルも強さも勝る奴ら以上にイベントに時間を使えって事さ。幸い俺とキズナは学生だし、イベント開始の日は夏休みの一日目。時間なら腐るほど費やせる」


「なるほど」


「ぅ〜☆ チョコは夏休みないから羨ましいぉ☆」


 ポイポイの言いたいことが少しわかった。


 要は私が一時間でアイテムを十個、上位陣が一時間で百個集められるなら、私が上位陣より九時間多くゲームに充てれば追い付けるって事か。


 普通の社会人が一日に八時間働くとして、出勤や退勤、食事やその他諸々に費やす時間も加味すれば、『ゲームに費やした時間』のアドバンテージと『ゲームに費やせる時間』のアドバンテージが並ぶか、ひっくり返せる。


 ただ問題もある。


「それ、この手のゲームに必ず居る『ニート系廃人』相手だと勝てないじゃんね」


 ゲーム素人の私でも、オンラインゲームにほぼ毎日二十時間近く時間を使ってる様な人種が居ることくらいは知っている。


 ニート系とは言うが、本当にニートな人も居れば、しっかりと仕事をしてるのに訳分からない異次元のスケジュール管理でゲームに費やせる時間を大量に確保してるヤバい人も居る。


 そもそも『ゲームをする事でお金を稼いでいる』配信者のような人も居るわけで、夏休みで時間が大量にあるアドバンテージは、何も私たちだけのものじゃない。


「もちろん分かってるよ。だからこそスケジュール管理が大事なんだ。これは何も現実だけの話しじゃ無くて、ゲーム内でのスケジュールも含んだ話しだ」


「と言うと?」


「つまりだな、オンラインゲームには絶対に年齢層別の時間分布ってものがあって、玄人の多い社会人に溢れる時間とか、ライトユーザーが多い若者ばかりの時間とか、ゲーム内同時接続数が同じだったとしても時間別に人の偏りが産まれるもんなんだよ。この時間はライトユーザーが好む狩場に人が集まって効率が悪いとか、玄人が集まる時間は強い人が多いからレイドボス周回が楽だとか、一匹狼が多い時間は人集まらないマルチよりソロ用のコンテンツを回す方が効率良かったりとか」


 待って欲しい。


 え、ゲーマーってそんな事まで考えながら遊んでるの? 馬鹿なの? もっと他にやる事ないの?


 いや今の私にはそんな知識こそが必要なんだけどさ、なんか、こう、人の闇に触れそうな話しで若干引いてる私が居る。


「ためになるぉ〜☆」


「ゲーマーが普段からそんな事まで計算して遊んでるんなら、確かに私たちライトユーザーは勝てっこないわ。『馬鹿じゃないの?』って感想しか出て来ないもん」


「まぁそう言うなよ。お前だってアレルギー発作上等でケモ吸いしてるの、普通の人から見たら『馬鹿じゃないの?』だからな」


「ちくしょう言い返せねぇ」


「二人はリアルでも結構仲が良いのかな。やり取りが小気味いい」


「仲良しだぉ〜☆」


 うん。周囲が恋人だと勘違いする程度には仲が良いかな。腐れ縁だけど。


 お互い、将来相手が居なかったら妥協してお前でいいやって感じだし。


「まっ、そんな訳でリアルとゲームのスケジュールを擦り合わせて最高効率を叩き出せれば、想像以上に結果へコミットするわけよ。それに、子供ってのも結構なアドバンテージだったりするんだぜ? 社会人は飯の準備とか自分でするが、俺たちは親が用意してくれるんだからギリギリまで遊べる。特にキズナはおじさん達に事情を話せば理解してくれるはずだし、相当時間を作れるはずだ。…………狙いはペットロイドなんだろ?」


「……うん」


 ふむ。確かに、私がゲームのイベントに絶対勝ってペットロイドを手に入れたいって言えば、父さんも母さんもきっと協力してくれる。


 いつもヘラヘラ笑ってる私だけど、流石に両親にこの心情の全てを隠す事なんて出来ない。動物に触れ合えなくて、裏で歯を食いしばって泣いてた私を、両親は知っている。


「だからまずスケジュールを決める。イベントエリアのマップは流石に分からないが、それでもどんなコンテンツがどの時間に効率良いのかくらいは予想出来るからな。その後アイテムの準備とかレベリングとか、必要な要素を埋めて行くぞ」


 流石はトッププレイヤーの一人か。口にする言葉一つ一つに説得力があり、素人の私でも納得が出来る内容に落とし込まれている。


 この話しを聞くだけでも、私が一人では絶対に勝つ事が出来ないと理解出来ただけでもポイポイに頼んだ甲斐が有る。


「イベント中はモンスター討伐で低確率、説得で確定と書いてあるから、多少手間でもランダム要素が無いモンスター説得の方が効率良いはずだ。多分モンスターの強さによって貰えるアイテムの数に差が出るんだろうから、つまり弱いモンスターほど簡単に説得出来るんだろう。説得の難易度と手に入るアイテム数の兼ね合いを見て一番効率の良い狩場をいくつかピックアップしつつ、モンスターの説得に使えそうなアイテムの確保も計画的に行くぞ。普段は倒しちゃうモンスターを説得しろって言われても予想しか出来ないが、普通に考えればまぁ、餌付けだろうな」


「なるほど。肉か」


「お? お? うちのヒーちゃんは草食ですぞ? おっぺぇさんは戦争をお望みですかな?」


「ニコニコしながらピキってんじゃねぇよキズナ。沸点低すぎるだろ」


「ニンジンさんも集めるぉ〜☆」


 そりゃ確かにさ、強い弱いで言えば肉食獣の方が強いんだろうけどさ。ヒールラビットも忘れないであげて欲しい。


 あの子たち元々可愛かったけど、最近最初の草原にいくとよちよち歩いて私に近づいて来てめちゃくちゃ可愛いんだよね。


 草原に寝っ転がると四方八方からヒールラビットが近寄って来て、気が付くと私が兎の山に埋もれているのだ。めちゃくちゃ幸せ。


 ……ひ、ヒイロ? これは浮気じゃないからね!? これはその、そう! キャバクラ! キャバクラみたいなもんだから!


「…………私キャバクラ行ったこと無いけどさ」


「なんて?」


「いや、なんでもない」


 くだらない脳内茶番を終わらせた私は、チョコさんから返してもらった嫁を抱きしめながら皆と計画を練る。


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