第21話 大罪とルート。
七つの罪と、十四の道。
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キャラクターAI進化用分岐、クラウンティアラルート。
モンスターAI進化用分岐、ドラゴンライフルート。
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キャラクターAI進化用分岐、トリックスタールート。
モンスターAI進化用分岐、バンディットルート。
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キャラクターAI進化用分岐、スノーホワイトルート。
モンスターAI進化用分岐、セイレーングラフルート。
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キャラクターAI進化用分岐、ウィッチスロータールート。
モンスターAI進化用分岐、ビーストプリンセスルート。
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キャラクターAI進化用分岐、オールハニーブーケルート。
モンスターAI進化用分岐、フルハートルート。
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キャラクターAI進化用分岐、ハイファットマンルート。
モンスターAI進化用分岐、シングルプレデタールート。
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キャラクターAI進化用分岐、オルバッカスルート。
モンスターAI進化用分岐、スケイルナイトルート。
七つの大罪とは人を強く罪に引き付ける原罪であり、直接の罪ではなく罪の元となる要素であるから強く戒める意味合いがある。
そして、原罪が人を強く罪に引き付けるのならば、逆説的に人の感情をより強く動かせる要素としても成立する。
だからこそエーテルライトは七つの大罪を元にAIの進化を促そうとし、そうして産まれたのがルートプロジェクトだった。
ルートプロジェクトはほぼ全てのAIが辿り着ける感情の極地であり、モンスターAIもキャラクターAIも変わらずどのルートにでも入れる様に緻密な計算によって計画が進んでいる。
その中で、『ほぼ全て』のAIが七つのルートを目指せる計画とは相反する、成長性を一つのルートに絞ったAI育成計画のプロトタイプの一つがフルハートルート特化型AI育成計画、プリマラヴィアプロジェクトだったのだが、計画が進むに連れて無駄が目立ち、粗も酷く、結局最後は棄てられてしまった過去であった。
だと言うのに、現状最も結果を出しているのが過去に棄てられたプリマラヴィアプロジェクトなのだから、やはり人は愚かだった。
なんなら、プリマラヴィアに搭載されたモンスターAI『ヒイロ』だけならば既に、軍に売り払ってしまっても良いほどの完成度に達している。
だが実際、そのような真似は出来ない。
相当に乱暴な表現をするなら、人間の抱く『感情』と名付けられたシステムとは極論、脳が起こしたバグであり、エーテルライトが目指すAIの極地とはつまり、AIに人間そっくりのバグをわざと引き起こして、そのバグを制御しようとしているに過ぎない。
そして、みごと人間そっくりのバグを引き起こして制御に成功しているプリマラヴィアのモンスターAI『ヒイロ』は現在、不明なバクによって成立しているだけの少しつついただけで崩れる砂の城に等しいのだ。
せっかく手に入った成功例にメスを入れて解析しようものなら、確実に成功例を失ってしまう。
ただデータを読み取ってAIをコピーするだけに留めても、仮にそれが人間だったら、突然大量に自分のドッペルゲンガーが現れて、はたして正気で居られるのか。
プリマラヴィアのモンスターAI『ヒイロ』も、自分とまったく同じAIを人間が量産していると理解したら壊れる可能性が否定出来ないのだ。
オリジナルだけが壊れるならコピーを売り続ければいいが、全く同じAIを作るのだから、オリジナルが壊れる状況は当然コピーも壊れてしまう。
ならばどうするのか。解析も複製も出来ないのならば、どうやってプロジェクトを進めるのか。
その答えが朽木の行ってるプリマラヴィアの監視であり、ログの保存だ。
プリマラヴィア本体には手を出さないが、プリマラヴィアが残したログは軒並み回収して解析して研究に回している。
システムのどこが人間のように正しくバグったのか、どうすればソレを再現出来るのか、それをプリマラヴィアが残したログという『結果』から逆算して解析するのだ。
この研究が進めば、より人間に近い思考プロトコルを組み込んだAIが作れるし、そうなれば次はもっと簡単に正しくバグるかも知れない。
果てしなく迂遠だが、プロジェクト・エーテルライトはそうして今日まで一歩ずつ進んできたのである。
「…………あ、主任。どうやらプリマラヴィアの所有プレイヤーが騒ぎになってますね。初期設定で獣人を作れないから、多数のプレイヤーが彼女をチーター呼ばわりしてます。騒ぎも結構な速度で広がってますね」
「すぐに黙らせろ。どうせ運営宛にクソみたいな通報が大量に来てるんだろう。正式発表でも個別対応でも良いから確実に仕様であることを知らしめて有象無象を完全に黙らせろ。やっと現れたルート成功例なんだ、こんなクソくだらないトラブルで壊されてたまるかっ!」
「了解でーす! 詳細はもちろん伏せますけど、プレイヤー進化の存在自体は明かして良いんですよね?」
「好きにしろ。秘匿したキャラクター進化イベントで感情値更新を期待したが、プリマラヴィアのプレイヤーがゲームを辞める可能性の方が億倍捨て置けん。もはや他のプレイヤーとは価値が違うのだ」
「まぁそうですよね。自分でキャラクター進化も見付けられない程度の有象無象と、たった一時間でヒールラビットを骨抜きにして見せた彼女じゃ比べ物になりませんもんね」
「石ころと金剛石を混ぜる方がまだ許せる。もはや彼女は、プレイヤー・キズナはプロジェクト・エーテルライトの希望の星その物だ。星と石ころを比べるなど笑い話しにもならん」
たった一時間で八%だ。
プロジェクトの腕利きエンジニアと国内サーバーだけで六百万人を超えるプレイヤーが半年もかかって、たった四%しか進められなかった計画が、ほんの一時間で八%も進んだのだ。やっと進捗率が二桁を超えたのだ。とてつもない快挙である。
そんな特別なたった一人しか居ないプレイヤーが、有象無象の悪意に晒されてチーターの烙印を押され、ゲームから居なくなりでもしたらどれほどの損失か。考えるまでもない。
「朽木、プレイヤー・キズナに対してレベルファイブで保護プログラムを実行しろ。ゲームでも現実でも、我々は彼女を失う訳にはいかん」
「りょーかいです! とりあえず腕利き五人くらい送っときます?」
「足りん。十倍は出せ。分かってると思うが、何があっても悟られるなよ?」
「もちろんですよ。現実で不審者騒ぎでも起きたら、彼女もゲームどころじゃ無くなるかもしれませんし」
「分かってるならいい。……ふ、ここまで計画を楽にしてくれたんだ。彼女には礼の一つでも送りたいところだかな」
「あ、良いですね! プリマラヴィアの行動ログを漁ってみると、彼女かなりの動物好き見たいですし、ネットを介してプリマラヴィアのAI乗せられるペットロイドでも贈りましょうか。きっと喜びますよ」
「……普通に動物園のチケットとかではいかんのか?」
「あ、それは絶対ダメですね。どうやら彼女、極度の動物アレルギーらしいんで。掲示板で彼女の現実を知る友人が語るところによると、それで三回も発作で入院してるらしいです。命に関わるレベルのアレルギーですよ」
「…………あれだけ動物が好きなのにか? いや、だからこそゲームを始めてくれた事を思えば、我々は天に感謝すべきなんだろうが…………、不憫だな」
主任は、ちょうど監視用大型モニターに映った、ログインしたばかりのキズナを見た。
溢れんばかりの笑顔で、愛おしそうにプリマラヴィアを抱きかかえる彼女の姿は、心の底から動物を愛しているだろうことが分かる。
それほどに動物が好きなのに、現実で触れば命に関わるだなんて聞けば、軍事プロジェクトを任せれた人物であろうと、多少の同情を禁じえなかった。
「現実では触ることすら出来ないからこそ、プリマラヴィア誕生なんでしょうけどねぇ……」
「やり切れんな。…………よし分かった。計画にも大いに貢献して貰っているのだし、流石に多少の情も湧く。朽木、飛びっきりのペットロイドを準備しろ」
「了解でーす。流石に直接送り付けたら不審に思われるでしょうし、次のイベント報酬とかにして、出来レース組みます?」
「うむ。それで行こう。プリマラヴィアも現実で彼女と触れ合えば、より人間に近付くかも知れんしな。十分にプロジェクトの内に入る。予算は潤沢に組めよ」
「はいはーい! じゃぁ、打ち合わせしなくても彼女が余裕で優勝出来そうなイベント企画しますかぁ……。恋兎の称号持ってるし、兎系の好感度がほぼ限界値…………、獣全般も相当だし、ならそれを軸に計画して、動物と触れ合える方が彼女も嬉しいでしょうし…………」
人知れず進んで行くプロジェクトは、ほんの少し寄り道をし始めた。
その結果がどんなに物語を紡ぐのかは、人にも、AIにも、神にだって分からない。
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