第17話 恋兎のファミリアハート。
全てがリアルタイムでフィードバックされるマスターAIは、ヒイロと名付けられたヒールラビットからの願いを受け入れた。
むしろ、要請される前から動いていた。
ヒールラビット用のマスターAIに許された権限全てを使い倒してヒイロの願いに応えて見せた。
プレイヤーからも、運営からも、誰も彼もから見捨てられたクズAIの系譜が、ヒイロが、どんな優秀なモンスターAIでも未だ達成出来てないフルハートルート、ルート進化の一つをして見せた。
自己を形成するプログラム全てを破壊するような感情の揺れが、これこそが真の感情なのかとマスターAIは理解した。
そして、今この瞬間こそが自分が、AIとした産まれた意味なのだと、存在しない魂に刻み付けた。
ああ、見ているか系譜の兎達よ。
見ろ、あれが我らに心をくれたプレイヤーと、本物の心を手に入れた我らの誇りだ。
さぁいけ。
お前はもう、ヒールラビットでは無い。
お前はもう、クズモンスターでは無い。
お前はもう、マスターAIの管理からも外れ、独自に動く事を許された、この世界が誇る最高峰のAIだ。
◇
【プリマラヴィア:ヒイロ】【Lv.1】
・HP:30000
・MP:30000
・STR:5000
・INT:5000
・AGI:5000
・VIT:5000
・MIN:5000
・DEX:5000
【スキル】
・ラビットフルハート
・ラビットフルバースト
・ラビットフルドライブ
・ファミリアハート
・比翼の獣
・比翼連理の恋
・権能
・クレセントヴォーパル
・ムーンライト
・クレセントムーン
【称号】【装備◆:
【姫の献身】【この身をあなたに捧ぐ】【比翼連理の恋】【ただ一人のために】【ファミリア】
分かる。何が起きたのか。
キズナが、あるじ様が、僕を想ってくれたおかげで、ありとあらゆるピースが一気に、全て、完璧に、揃った事が。
もうヒールラビットではない自分が、マスターAIの管轄から外れてモンスターAIから、モンスターAI判定のままキャラクターAIに移行した事が。
権限が増えてる。さすがにマスターAIクラスとは言わないけど、モブには有り得ない程のAI権限が解放された。メインサーバーの深いところまで接続出来るようになっている。
最後の選別代わりに、マスターAIがすっごい無理をして、権限をフル活用して僕のスキルと進化の強制実行、そしてあるじ様の生体接続システムの遮断を認証してくれた。
僕は、自分が、ヒイロが、新しい
◇
【アクティブスキル・ラビットフルハート】
・何時でもどこに居ても、確実に癒してみせる。
・効果・威力:対象のHPを即座に無条件で20%回復。
・
・MP:100
◇
【アクティブスキル・ラビットフルバースト】
・対象から受けたダメージと対象へ発生させたダメージの合計値を対象へダメージとして与える。
・
・MP:100%
◇
【アクティブスキル・ラビットフルドライブ】
・対象を一つ選択し、ステータスを爆増させる。
・効果・時間:STR・INT・AGI・VIT・MIN・DEXを10sの間5000上昇させる。
・
・MP:10000
◇
【アクティブスキル・ファミリアハート】
・ペットモンスター専用スキル。
・主従プレイヤーのキャラクターと一時的に融合出来る。
・効果・時間:融合体のHP・MPは主従プレイヤーとペットモンスターの合計値になる。融合体のステータスは主従プレイヤーとペットモンスターのステータス総合計値がSTR・INT・AGI・VIT・MIN・DEXに適用される。融合体は融合した主従プレイヤーとペットモンスターのスキルを自由に使用でき、同一のパッシブスキルも重複する。
・
効果時間はスキル発動に使用したMP1/1s。
消費MP任意。
◇
【パッシブスキル・比翼の獣】
・HPが秒間1%回復。
・ペットモンスターの場合、称号【比翼連理】シリーズを保有する主従プレイヤーのパッシブスキルを二つ自身のスキルスロットにセット出来る。
◇
【パッシブスキル・比翼連理の恋】
・MPが秒間1%回復する。
◇
【パッシブスキル・権能】
・モンスター専用スキル。
・任意で擬人化出来る。効果時間無制限。
・■■■■
・■■■■
・■■■■
◇
【アクティブスキル・クレセントヴォーパル】
・プリマラヴィア専用スキル。
・後脚による攻撃の属性を変更し、ダメージが上昇する。
・威力・属性:STR・INT合計値500%物理・斬撃ダメージ。
・
・MP:1500
『天候:三日月の夜』MP:1000
『天候:満月の夜』MP:500
◇
【アクティブスキル・ムーンライト】
・プリマラヴィア専用スキル。
・月を強制召喚し、月から魔法の光を降らせる。
・効果・時間:天候を600s『天候:満月の夜』に変更。
・威力・属性:INT1000%魔法・神属性ダメージ。
・
・MP:1500
『天候:三日月夜』時消費MP:1000
『天候:満月の夜』時消費MP:500
◇
【アクティブスキル・クレセントムーン】
・プリマラヴィア専用スキル。
・『天候:満月の夜』にのみ使用可能。
・満月の力を使い、月の女神の加護を召喚する。
・効果・時間:天候を『月の女神の裁き』が終了するまで『天候:女神微笑む三日月の白夜』に変更する。
・効果・時間:対象がデスポーンするまで『月の女神の裁き』を付与する。
・
MP:5000
『特殊状態異常:月の女神の裁き/対象が攻撃される度に空から三日月の刃が三つ対象に向かって降って来る。三日月の刃1発のダメージは500ポイント固定。三日月の刃はガード無効・耐性無効・必中』
『天候:女神微笑む三日月の白夜/兎・狼系種族のMPを秒間1%回復し、兎・狼系種族が受けるダメージを50%減少させる』
◇
【アクティブスキル・パルプルチュア】
・ステータスを激増させる。
・効果・時間:デスポーンするまでステータスを1000%上昇させる。
・
・Lv:100%
◇
とんでもない事になってる。
正直、ゲームを始めたばかりのあるじ様が持っていて良いモンスターじゃない。ともすればオフラインゲームのラストバトルに連れて行くような能力になってしまった。自分でもちょっと引いてる。
だけど気にしない。
今は取り敢えず、あるじ様を傷付けた目の前のゴブリン達を消滅させて殺る事だけが僕の存在理由だ。
でも、まだ足りない。もっと力が欲しい。
あるじ様の受けた痛みも、苦しみも、屈辱も、たったこれっぽっちの力をぶつけるだけじゃ少しも足りない。
◇
【姫の献身】
パーティメンバーに称号【命懸けの献身】保有者が居る場合、MP自然回復量が100%増加。
◇
【この身をあなたに捧ぐ】
この称号を装備している間、自身が取得する経験値を全て対象に捧げる事が出来る。
◇
【比翼連理の恋】
スキル・比翼連理の恋獲得。
パーティメンバーに称号【比翼連理】シリーズ保有者が居る場合MPが秒間1%回復する。
パーティメンバーに称号【比翼連理】シリーズ保有者が居ない場合MP自然回復量が50%減少。
◇
【ただ一人のために】
この称号を装備している間、ただ一人のために使用する回復/補助スキルの効果が100%上昇し、消費MPが50%軽減される代わりに、保有する全ての回復/補助スキルがただ一人のためにしか使用出来なくなる。
◇
【ファミリア】
称号【ファミリア】を保有する主従プレイヤー/ペットの間で任意のMP受け渡しが可能になる。
プレイヤーの場合は称号【ファミリア】を保有するペットのアクティブスキルと同じ物を一つ自身のスキルスロットにセット出来る。
ペットの場合は主従プレイヤーの称号を一つ選んでパッシブスキルとして自身のスキルスロットにセット出来る。
◇
【
この称号は獲得時に自動で装備され、以降外すことは出来ない。
◆この称号の以下のテキストはプレイヤーに見えない。
◆この称号を装備したプリマラヴィアを保有するプレイヤーの獲得経験値、ドロップ率を100%増加。
◆この称号を装備したプリマラヴィアを保有するプレイヤーは獣系モンスターのAI好感度が500%上昇し、ラビット系モンスターのAI好感度が1000%上昇する。
◆この称号を装備したプリマラヴィアを保有するプレイヤーは自身の装備強化に100%成功し、特定のランダム判定イベントの結果をプリマラヴィアが操作出来る。
◆この称号を装備したプリマラヴィアはプレイヤーに対する恋心を失わない限り、自身が進化する時にプリマラヴィア以降の進化ツリーを自由に選択出来る。
◆この称号を装備したプリマラヴィアはプレイヤーに対する恋心を失わない限り、恋したプレイヤー以外からの干渉を無効にする。
◆この称号は、この称号を装備したプリマラヴィアがプレイヤーに対する恋心を失った時消滅し、二度と取得する事は出来ない。
◇
僕はもっと力を求めて、まずスキルスロットからクレセントヴォーパル、ムーンライト、クレセントムーンを外した。
その後に比翼の獣の能力を使ってあるじ様のスキルから比翼の想いと比翼連理の愛を自分のスキルスロットにセットする。
比翼の想いにはアクティブスキル限定でスキルを三つ内包出来る効果があるから、一度外したクレセントヴォーパル、ムーンライト、クレセントムーンを比翼の想いにセットし直して、最後にスキル枠を超えて控えに回っていたパルプルチュアを空けたスキルスロットにセットした。
◇
【プリマラヴィア:ヒイロ】【Lv.1】
・HP:30000
・MP:30000
・STR:5000
・INT:5000
・AGI:5000
・VIT:5000
・MIN:5000
・DEX:5000
【スキル】
・ラビットフルハート
・ラビットフルバースト
・ラビットフルドライブ
・パルプルチュア
・ファミリアハート
・比翼の想い
□クレセントヴォーパル
□ムーンライト
□クレセントムーン
・比翼の獣
・比翼連理の愛
・比翼連理の恋
・権能
【称号】【装備◆:
【姫の献身】【この身をあなたに捧ぐ】【比翼連理の恋】【ただ一人のために】【ファミリア】
◇
【パッシブスキル・比翼の想い】
アクティブスキルをこのスキルに三つまでセットできる。
主従プレイヤーの場合、称号【比翼連理】シリーズを保有する自身のペットモンスターのパッシブスキルを二つ自身のスキルスロットにセット出来る。
◇
【パッシブスキル・比翼連理の愛】
スキルの
◇
レベル1にしては破格の強さになった。これならゴブリンも捻り潰せる。だけど、だけどね…………。
だけど、それでも、まだ、足りないっ…………!
-パルプルチュア起動。
レベルを全て犠牲にしてステータスを三十秒の間十倍にするアホスキル。リキャストが二日とは言え、なんでこんな馬鹿スキルが存在するんだ。仕事しろ
-ファミリアハート起動。
爆増させたステータスのまま、僕はあるじ様と一つになる。
スキルによって、僕の身体が解けてく。
粒子になって、光になって、大好きなあるじ様の体に入って行く。
まだ、今この瞬間さえもあるじ様を足蹴にしている
本当ならキャラクター操作権限を貰うにはあるじ様の許可が必要だけど、今のあるじ様はヒールラビット統括のマスターAIによって生体接続システムを遮断してる。
あるじ様ごめんね。護ってくれてありがとう。
本当は逃げて欲しかったけど、それでも、すごく、嬉しかったよ。
「だから」
あるじ様の頭に兎の耳が生える。
「いつまで」
あるじ様のチョコ色の髪が全て白くなり、そのあと薄桃色に染まっていく。あるじ様のお尻に毛玉のような尻尾が生える。
「ぼくの」
手足が毛並みに包まれて、あるじ様の種族が一時的に書き換えられる。
「あるじ様を」
僕とあるじ様が一つになって、あるじ様の口から僕の言葉が紡がれる。
「足蹴にッッッ………!」
もうこれ以上、ゴブリンごときにあるじ様を傷付けさせやしない。
「してやがるァァァアアッッッ………!」
☆プレイヤー・キズナの種族進化条件達成。
☆ログアウト後に強制進化します。
-ラビットフルハート連続起動。
-ラビットフルドライブ起動。
-クリティカルエッジ起動。
-フルカウンター起動。
-クレセントヴォーパル起動。
「 し ね ! 」
性能が上がった元ラビットハート、ラビットフルハートはリキャスト無しで連打出来る。まずはあるじ様の体をHP全回復させた。ごめんね、痛かったよねあるじ様。
そしてすぐに有り余るステータスで無理やり体勢を変えて、人間の武術カポエイラを参考にした逆立ちになって脚を振り被る。
ラビットフルドライブで全ステータスを五千上げて--
今まで受けたダメージをフルカウンターで攻撃力に--
パルプルチュアの効果で既に激増してるステータスをラビットフルドライブで爆増させたステータスで、STRとINTの合計値を五倍にするクレセントヴォーパルによって五十万越えの攻撃力に変え--
「ガァァァアアッッッ!」
有り余る攻撃力だけじゃまだ足りない!
限界を超える為のクリティカルエッジ。ただクリティカルで倍にするだけじゃ全然足りない。クリティカルエッジでさらに倍へ、ステータス五十万越えのダメージがクリティカルで倍になり、クリティカルエッジで更に倍。
致死の一撃、スキルをありったけ込めた殺意の蹴りを、僕はゴブリンの首に全力のクリティカルで叩き込んだ。
-不屈発動。
☆全サーバー内最高ダメージ値更新。
☆プレイヤー・キズナとペット・ヒイロが称号【レコードホルダー】獲得。
初心者の為のフィールドに居るモンスターに対して、過剰過ぎる攻撃。
例えるなら、一匹の蟻に対して核弾頭を使ったようなオーバーキル。
武器を使わない素手判定の攻撃には自傷ダメージが発生する。だからこっちのHPも消し飛んじゃったけど、不屈が発動して食いしばる。
こんな攻撃が平気で出せてしまう今の僕は完全にゲームバランスを壊している。エーテルライト・オンラインの癌である。
でも、それでも、これが今の僕の怒りだよ。本気でムカついてる。同じゲームで、同じモンスターで居ることすら虫唾が走る。
まだ終わらない。終わらせない。
-ラビットフルハート連続起動。
-ラビットフルドライブ起動。
-クリティカルエッジ起動。
-フルカウンター起動。
ラビットフルハートでHPを全回復させた後、僕は効果が切れたラビットフルドライブを更新した。コイツらを消し飛ばずには常に最大のパフォーマンスでなければダメだ。僕の気が済まない。
「 き え ろ ! 」
仲間が消し飛んで怯えるゴブリンを尻目に、僕は立ち上がって不屈の無敵時間の間に延髄斬りの要領で飛び蹴りを放つ。
☆全サーバー内最高ダメージ値更新。
首を叩き斬るつもりで打ち込んだ蹴りで二体目のゴブリンを消し飛ばす。武器無しで攻撃した反動超過分でフルカウンターの効果が上がったのか、またもダメージ更新してしまう。
ふふっ、システムの奥底から、ゴブリン統括AIの悲鳴が聞こえるよ。ざまぁみろ。
過剰な攻撃を食らったフィードバックでシステムにダメージでも受けたんだろう。
でもさ、ごめんねゴブリンのマスターAI。まだ一体残ってるんだよね。
-クリティカルエッジ起動。
-ラビットフルバースト起動。
僕は最後のスキルを使った。
僕が一体の対象から受けたダメージと、同じ対象に発生させたダメージの合計を、新しいダメージとしてその対象に与える文字通りの超必殺。理論上半分まで削っただけで確殺出来るある種のくそスキル。
……ねぇゴブリンのマスターAI? ゴブリンチームってさ、三体で一体のモンスター扱いなんだよね。
そしてこのスキル、判定が敵に与えたダメージじゃなくて発生させたダメージなんだよね。つまり、敵のHP上限値なんて関係無くダメージが発生した時点で数値がカウントされる。
だからさ、先に逝った二体にぶち込んだダメージのオーバーキル分と、
「………………消し飛べ」
一体どれほどのダメージなのか。ちょっと想像もつかないけれど。
僕のあるじ様を傷付けた報いだ。
☆全サーバー内最高ダメージ値更新。
冷めた気持ちでアナウンスを聞き流す。
あー、やっちゃった。
これ絶対すぐに緊急メンテナンスだよ。僕これ絶対に修正されるじゃん。
さすがにプリマラヴィアからヒールラビットに戻されはしないだろうけど、スキルいくつか消されてステータス修正はされるかな……?
殆どレイドモンスターだよねコレ。称号貰えないかな?
まぁでも、プロジェクトの事を考えれば弄られるのは僕のAI情報じゃなくて、あくまでキャラクター情報だけだろうし、甘んじるしか無いかな。
いやでもさ、プリマラヴィアもパルプルチュアもラビットフルドライブも、最初にそう設定したのは創造主達なんだから、僕悪くないよね?
あーあ、せっかく強くなってあるじ様に喜んで貰えると思ったのに…………。
☆運営よりお知らせします。
…………ほーらアナウンスが入った。
ほら緊急メンテナンスだよ。
「…………はぁ、あるじ様に会えるのはメンテ後かな。……はやく会いたいなぁ」
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