あいびょうマーチ
和登
あいびょうマーチ
卒業式がつつがなく終わり、語ることが尽きない一部の卒業生をのぞいてほとんどが下校している中、アラタは自主練を終えて教室に荷物を取りに来ていた。
遠くから音が聴こえる。吹奏楽部もまだ残っているのだろう。
仰ぎ見る相手かもしれない顧問は卒業生の担任でもあり、軽度の自主練を促してからは姿を消していた。今日ぐらい別に練習しなくてもいい気はしたし、実際やってた部員は半分程でそれらも早々に帰っていた。
「じゃあ、私達センパイのところ行ってくるね!元気出して!」
階段を上がり教室に近づくと、クラスの女子らが誰かに話しかけてから三階へかけていった。彼女らが去った後、開け放しの扉の先に机と同化したような存在が見えた。外側に強いカールのかかった金髪にダボダボのブレザーとカーディガンのコーディネートはミヤコだろう。
教室はうなだれているミヤコ、そしてアラタとで二人だ。
「ほんと早すぎだよ、やっと仲良くなったと思ったのにー」ミヤコは彼に気付くとうつむいたままこぼす。
「出会いあれば別れありってやつだろ」アラタは湿っぽいのが苦手なのだ。
「楽しい時はあっという間、なんだよね」ミヤコは顔をあげ、わかったようなことを言う。
「ハジメこそちょっと毛深いなって思って近づけなかったけど、良く動くし」運動部に多そうな特徴だと思いながらアラタは席に着く。
「ご飯を食べてくれるまでいろいろ試したんだよ。手作りを食べてくれて嬉しかったなぁ」ミヤコのうっとりした表情が窓からの光か目がキラキラしている。
「なかなかこっちを向いてくれなくてどっか行っちゃうの、それも可愛いくて」
アラタは他人の恋路はそんなものだよなと椅子にもたれながらフンフンとうなずいてみせた。
「座った時は姿勢が良くてかっこいいし」フンフン
「振り向いた横顔も素敵だし」フンフン
「一緒に寝るとポカポカしたし」フンフン、え?
「寝顔もとってもかわいいんだ」
「…そんな話ここでしていいのか?」
「羨ましい?」ミヤコはすこし誇らしげだ。
「いや…スキンシップしてるんだなって」
「そうだよ?今じゃお風呂も一緒だしソファでハグするしキスだって…しちゃダメって言われてやってないけど」
「イチャイチャすぎだろ!?何聞かされてるの?」アラタは耳が熱くなるのを自覚していた
「とっても幸せだった。でもお別れなんだ」ミヤコは首を垂れて顔が髪で隠れる。
「…そこまでナカヨシ?なのに?」
「もう元の家族のところに帰らなきゃ」
「…不純だ」アラタは小さく呟いて荷物もそこそこに席を立つ。
「待って!お別れの時に渡すものを考えてて、意見を聞きたいの」ミヤコはそう言ってアラタを引き留める。顔は真剣そのものでアラタは逃げ出したい気持ちを抑えた。
これ以上何を見せられるんだろう。何が出ても同意してこの場を離れようとアラタは思った。
吹奏楽部の音は止んでいて、窓の光はもう眩しくない。ごくり
これなんだけど、と手を開いて見せたのはどこか見覚えのあるチューブ状の餌だった。
まっしぐらである。
「「猫かよっ!」」
おわり
あいびょうマーチ 和登 @ironmarto
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