第172話 旅路の予定
今回の旅路での経路はこうだ。
まず、イザナ縦断鉄道を左回りに進み、未開発領域がほとんどを占める皇国西部を視察する。
西部にはイザナ皇国の経済を支える資源地帯が広がっていて、現在は資源開発チームが西部劇よろしく絶賛開拓中だ。西進する過程で新たに見つかった動植物なんかのサンプルも確保しているらしく、それがついさっきのウナギ養殖なんかにも繋がっているとのこと。
まだ見ぬ大地に眠る無限の可能性に、なんとなくアメリカンドリームならぬイザニアンドリームを見出した俺である。きっと西部を開拓している人間も、そういったイザニアンドリームに魅入られた人達なんだろう。彼ら彼女らは夢を追い求め、やがてその夢が巡り巡ってイザナ皇国全体を豊かにする。実に良い循環システムだ。
話は逸れたが、そうやって西部の各地……まだ植民都市にすらなっていない村のような場所をいくつも回っていって、最終的には大陸の最西端、イザナ西海岸へと向かうつもりだ。
西海岸には、国土の大部分が乾燥帯で過酷な環境にあるイザナ皇国では珍しく、豊富な緑があることが人工衛星と空撮ドローンの写真から判明している。
緑だ。豊かな自然があるのだ。
きっと生態系も東部のそれとは比較にならないくらいに豊かなんだろう。未知の病原菌や寄生虫、危険な虫や動物なんかも多いだろうから、皇帝として身分のある俺がいきなり現地を探検するわけにもいかない。ただ、現状ほんの少しだけ開拓が進んでいる西海岸外縁部なら安全性が担保されているということで、今回こうして視察に行くことが可能になったのだ。
そしてそれらのすべてを視察し終えたら、帰りの列車で東方へと逆戻り。首都・六花市をそのまま通り越して、最東端にほど近い大山脈山麓温泉地帯へと赴いて、そこでゆったりと旅の疲れを癒す算段である。
……などと旅の予定を振り返っているうちに、気が付けばそろそろ最初の開拓地だ。
「《まもなく最初の町、
車掌の車内アナウンスが入る。どうやらもう間もなく到着らしい。
最初の町名前は暁市。俺が直接開拓した六花市を除けば、初めて国民が主体となって開拓した始まりの町である。そんな町誕生の経緯から、イザナ皇国の未開地――――すなわち闇を切り開く夜明けの意味を込めて、暁市と命名したのだ。
「《こちらの暁市には温泉はございませんが、代わりに大規模な鉱山の採掘現場が見どころです。また、鉱山で働く人々の好みに合った『爆弾カツカレー』が名物となっております。以上、車掌の
「だってさ、進次!」
「爆弾カツカレーか。……うん、さっき鰻重を食べたばっかりだってのに、今からお腹が空いてきた」
「今回の旅行で私達確実に太っちゃうね」
「柚希乃は良いよな、軍で運動量がしっかり確保されてるんだから!」
「進次も一緒に訓練すれば?」
「……次からそうするか」
本音を言うと、軍の厳しい訓練に参加したら確実に全身が筋肉痛になるのであまりやりたくはないんだが……これも健康のためだ。致し方あるまい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます