第63話 一方的にタコ殴り

「『こちら《JKライダー》。四機とも現場空域に到着した。目標を目視にて確認。先ほどと比べて特に変わった点は見られない』」

「こちら官邸。当初の予定通り対地攻撃を開始せよ。目標、敵先鋒部隊」

「『《JKライダー》、了解。これより対地攻撃に入る』」


 アイシャ率いる「ハイパーゼロ」部隊から通信が入った。現在、ルシオン王国軍はここ叶森台地から約二〇〇キロの距離にある、沖田平野の外縁部に差し掛かっている。ギリギリ都市防衛用巨大レールカノン、通称「叶森砲」の射程圏外だ。

 なのでまずは高い対地攻撃能力を持つハイパーゼロ部隊が、空爆と機銃掃射で敵軍に打撃を与える作戦を実行し、動揺を誘うのだ。


「『爆弾投下五秒前、四、三、二、一、投下。……命中したよ!』」


 爆発音は無い。だが偵察衛星およびハイパーゼロから送信されるリアルタイムの映像には、しっかり攻撃が命中している様子が映っていた。


「よくやった!」

「『こちら《バードマン》。《JKライダー》に続き、攻撃を行う。爆弾投下――――命中。よっしゃあ!』」


 お次はアイシャの僚機を務める男子生徒の番だ。

 彼は【鳥人間】という『恩寵』の持ち主で、空を飛んだ状態であれば知力・体力・精神力その他諸々の全能力が著しく向上する、まさに空を飛ぶためだけに生まれてきたような奴だ。

 コールサインはそのまんま「鳥人間バードマン」だ。アイシャの「女子高生バイク乗りJKライダー」もそうだが、思ったより随分と安直な名前である。

 ちなみにそんな彼の将来の夢は鳥人間コンテストでの優勝らしい。前に異世界に召喚されて夢が潰えたことをいたわったところ、戦闘機に乗れたのでむしろ召喚されて良かったと言っていた。それで良いのかと思わなくもない。


「『こちら《ホークアイ》。敵軍の高位指揮官と思しき隊列を発見。これを狙う許可を求む』」


 全四機編成のハイパーゼロ部隊で副隊長を務める、先ほどの「鳥人間」君とは別の男子生徒が通信越しにそう話しかけてきた。

 彼の『恩寵』は【鷹の目】。上空から【銃士ガンナー】並みの非常に高い視力で多数の目標を識別したり、あるいは地上においても周囲の状況を俯瞰図のように把握できたりする『恩寵』だ。

 【銃士】のような攻撃必中効果があるわけではないが、目が良いというのは狙撃手やパイロットにとっては必須能力の一つ。目が良ければ良いほど、攻撃の命中率は高くなる。


「許可する。ただし絶対に命中させるんだ」

「『了解した。必ず当ててみせよう――――命中』」

「よし! これでかなり攻略が楽になるぞ」


 部隊を統括し、士気にも大いに関わってくる指揮官を撃破できたことは非常に大きな成果だ。現代の米軍や自衛隊のような一流の軍隊でない限り、頭を失えば軍隊というものは烏合の衆に早変わりするのが世の常である。

 これで恐怖を感じた末端の兵士達が逃亡しようとするのを食い止める役割の指揮官が相当減ったわけだ。


「『こちら《コウノトリ》。敵先鋒の隊列が乱れてますっ。どうしますか?』」

「少し待て、映像を確認する。……《コウノトリ》。敵先鋒と後続の間に爆弾を投下して、部隊を分断することは可能か?」

「『ふえぇ〜んっ、や、やってみますけど、失敗しても怒らないでくださいね〜!』」

「大丈夫だ。安心してぶちかませ」


 そう言って急降下を開始する《コウノトリ》。悲鳴は可愛らしいが、現在進行形で遂行している任務の内容はまったく可愛らしくはない。正当防衛だから悪いことではないが、やっていることは文明度の差を利用した一方的な爆殺だからな。

 ちなみに彼女の『恩寵』は【運び屋】だ。空を飛んでいる時限定で、輸送している荷物を確実に送り届けるという効果がある。荷物を運んでいる最中なら絶対に敵の弾は自分に当たらないし、エンジントラブルや計器の故障も起こらないという【銃士】さながらの因果律操作力を持っているチート級『恩寵』だ。

 もちろん航続距離を超えたり、そもそも機体のスペックでは運びきれないような荷物を無理に運んだりすればそのチート効果も発揮はされないが……少なくとも無理をしない範囲であればは絶対に目的地まで届くわけだ。

 これを解釈し直せば、空爆成功率は一〇〇%になるということになる。爆弾にもつを届けることに違いはないからな。

 今回みたいに配送地を急遽変更する場合でも『恩寵』は効果を発揮するのかはわからないが、その検証も兼ねて俺は先ほどの命令を下したわけだ。


「『ひぇ〜! 地面が近付いてきて怖いですぅ〜……あっ、命中しました! やったっ』」


 どうやら無事、指定した箇所に爆弾を投下できたようだ。なるほど……配送地の途中変更はアリ、と。


「『こちら《JKライダー》。分断の成功を確認。敵先鋒部隊は孤立したよ!』」

「よし。そのまま機銃掃射で叶森砲の射程圏内まで押し込め。当該空域に魔物の姿は確認できないから、残弾はそこまで気にしなくて構わないぞ」

「『りょーかい! 皆、一気に攻め込むよ。あたしに続け〜!』」

「「「『了解』」」」


 アイシャを先頭に、四機のハイパーゼロが機銃掃射で孤立した先鋒部隊を叶森台地側へと追い込んでいく。


「もう数百メートル……あと少しだ………………来た! 柚希乃、今だ!」

「『了解! ――――叶森砲、発射!』」


 ――――ギュオオォォー……ンッッ


 官邸から二キロほど離れた、叶森台地で最も標高の高い丘に設置してある都市防衛用巨大レールカノン。イザナ皇国の誇る最強の大火力が火を吹き、その振動波が大気を震わせて俺達のいる官邸にまで伝わってくる。


 ――――ビリビリ……ッ

 

「目標まで残り一〇、九、八……」


 大気を切り裂き、極超音速で飛翔する砲弾。猛烈な殺意の塊は、やがて射程圏内に侵入した蛮族共ルシオン兵に襲い掛かる。

 

「……三、二、一、弾着だんちゃーく!」


 衛星からリアルタイムで送信される映像に、巨大な土煙が映り込む。沖田平野の外縁部に見事なキノコ雲が立ち昇り、官邸に緊迫した空気が張り詰める。


 やがて映像の土煙が晴れ、珍しく綾が大きく声を張り上げて報告する。


「…………敵先鋒部隊のを確認! 命中です!」











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