第64話 帰るまでが遠足
「…………敵先鋒部隊の消滅を確認! 命中です!」
映像を確認して、そう報告してくる綾。俺はといえば、自分の開発した叶森砲のあまりの威力を目の当たりにして、背中に冷や汗が流れるのを感じていた。
「こ、これが叶森砲の力……」
「恐るべき威力だ。ルシオン兵が文字通り手も足も出ないとは……」
「つくづく進次さんが味方で良かったと思います」
モーリスにリオン、セリアのリガニア人組が映像を見ながら戦慄している。だがこの衝撃的な映像には紗智子先生や眞田、姫乃といった日本人組も少なからず恐れを抱いたようだ。
「この力、悪用はできませんね」
「悪用なんて、進次様がなさるわけがありませんわ。よしんば敵に非難されたとしても、進次様の行いが悪いことであろう筈がございませんでしてよ」
「佐渡ヶ島氏の沖田氏に対する信頼が厚すぎる気がするでござる」
「惜しいぞ、眞田。これは信頼じゃない。信仰と呼ぶんだ」
「そうでしたな」
「あら〜! 信仰だなんてそんな、お恥ずかしいですわ!」
「照れるポイント、そこかな……?」
あの百合先輩が呆れたように疑問を口にしている。なんという珍しい場面だろうか。ちなみに姫乃が俺をひたすらヨイショするのはいつもの光景なので、特になんの新鮮味も珍しさもなかったりする。
「『こちら砲台。レール
「柚希乃か、よくやってくれた。だが次弾は少し待ってくれ。しばらく敵の様子を確認したい。……《JKライダー》、もう少し高度を下げて映像を鮮明に映せるか?」
「『こちら《JKライダー》。りょーかい! もうちょい近寄るよ』」
「敵の対空砲火に気を付けろよ。まあ、飛んでくるかはわからんが」
もっとも、弓矢が飛んできたところでまともに命中するとも思えない。杞憂ではあるんだろうが、まあ心配しすぎても困るものじゃないしな。
「《ホークアイ》。敵後続部隊の様子はどうだ? 今の攻撃を受けて、動揺していたりするか?」
「『こちら《ホークアイ》。敵兵士の足並みが止まっている。どうやら今の一連の攻撃に恐れをなした模様。進軍する気配はない』」
「よし、いいぞ。このまま大人しく帰ってくれれば楽なんだが……」
だがそううまくいかないのが現実というものだ。足を止めていたかに見えたルシオン軍だが、数分ほどするとまた少しずつ前進を始めた。
「『こちら《ホークアイ》。敵の進軍を確認。指揮官が怖気ついた兵士を見せしめに処刑し、前進を強要した様子が確認できた。…………撃っちゃいます?』」
「残弾数はどのくらいある?」
「『一五〇ほど』」
「……いけるか?」
「『余裕です』」
「よし。ではハイパーゼロ部隊諸君に新たな命令だ。指揮官と思しき連中を、残弾数の許す限り狙い撃ちにしろ」
「「「「『了解』」」」」
それからしばらくの間、ハイパーゼロ四機による指揮官のみを狙った機銃掃射が徹底的に行われ。
やがて皆の残弾数がゼロになろうかという頃になって、ようやくルシオン軍に動きが見られた。
「敵兵、秩序を失った状態で後退していきます」
「『逃げてくよ〜!』」
指揮官を失った軍隊には、統率能力など無きに等しい。さながら烏合の衆といった様相を呈しながら、ルシオン兵達は我先にと沖田平野から去ってゆく。
「……ルシオン軍、統率を取り戻しました。ですが……後退は続ける模様です」
「どうやらあちらさんにも冷静な判断力を残した士官が多少はいたようだな」
「助かります。沖田平野を無駄に血で汚さずに済んでよかったですね」
「ああ。ここは俺達にとって大切な土地だ。たとえ敵のものとはいえ、あまり血で汚したくはなかったからな」
別に汚れたからといって、呪いが発生するとかではないのだが。それでも自分の家が心理的
国土を守るために最低限の攻撃こそ行った俺達だが、別に奴らの虐殺が目的というわけではないのだ。最優先事項はあくまでイザナ皇国の主権が守られること。そこを履き違えてはいけない。
「敵、完全に隊列を組み直しました。そのままルシオン王国方面に向けて後退していきます」
「……ふう。これでひとまず危機は去ったな」
負ける気はしなかったとはいえ、イザナ皇国にとってはこれが初めての実戦だったのだ。緊張を感じなかったといえば嘘になる。
「なんにせよ、皆よくやってくれた。……特にハイパーゼロ部隊と柚希乃は今回のMVPだな」
「『当然の仕事をやっただけだよー!』」
「『フゥゥゥッ! やっぱ空は気持ちいいぜーッ』」
「『目を酷使したから疲れたな。……陛下、目薬って作れたりします?』」
「『ふぇ〜ん、いっぱい命を摘み取っちゃった……罪を犯しちゃいましたぁ』」
「『小鳥ちゃん……あっ、《コウノトリ》ちゃん! あたし達は国を守るために戦ったんだから、何も悪いことはしてないんだよ。悪いのは勝手に人の家に土足で侵入してきたあいつら! あたし達が気にすることはないんだよ』」
「『そうでしょうか……? でも確かに、国を守るためにはこうするしかなかったんですよね。……そう考えたら、なんだかちょっと落ち着いてきました』」
「『《コウノトリ》ちゃん、ナイスファイトだったよ!』」
「『あ、ありがとうございます……っ。えへ、えへへ』」
勝って兜の緒を締めよ、とは言うが。彼らは最前線で危険な任務に就き、それを無事に完遂したのだ。今くらいは砕けた雰囲気で軽口を叩き合うのを許してやっても構わないだろう。
「官邸よりハイパーゼロ部隊へ。お楽しみのところに水を差すようで悪いが……いいか、帰るまでが遠足だぞ。くれぐれも気を抜いて墜落したりするなよ」
「「「「『了解〜』」」」」
「君達……本当にわかってるのか?」
まあ、なんにせよ、国が守られたのは良いことだ。さて、それでは本部で指示を出すだけだった俺は彼らの出迎えにでも行くとするかな。
でもその前にまずは、ハイパーゼロ部隊と同じくらい勝利に貢献してくれた勇敢なる【
「少し出てくる。綾、あとは頼むぞ」
「柚希乃先輩ですか?」
「まあな」
俺は官邸を出ると、最近ではすっかり乗ることも少なくなった愛用の単車に
トトトト……という音の後にスロットルを捻ってやれば、バルルルンッと力強い音を立てて四〇〇ccの単気筒エンジンは始動した。
「空が綺麗に晴れてやがる。絶好のツーリング日和だな」
この後にやらねばならないことはまだ山ほど残っているが、今日くらいは少しばかりゆっくりしたって構わないだろう。
柚希乃を拾ってアイシャ達を出迎えたら、久しぶりに沖田平野を
俺はそんなことを思いながら、丘の上の砲台へとバイクを走らせるのだった。
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