第50話 ……まるでチート級『恩寵』のバーゲンセールだな……

「それにしても、なんでこんな凄い『恩寵』なのに追放されたんだろうな?」


 【生体恒常性ホメオスタシス】と【診断】の二人の力について色々説明を受けながら、俺はそう呟く。

 ちなみに【生体恒常性】の子が一年の田原たはらほまれさん、【診断】のほうが同学年で二年B組の佐渡ヶ島さどがしま姫乃ひめのさんだ。


「そんなの、この世界の医療技術の水準が低いからに決まってますわ」


 そうきっぱりと断言するのは佐渡ヶ島さんだ。何かそう言いきれる根拠でもあるんだろうか。


「わたくし、【診断】という『恩寵』名からもわかるように、医師のように病名や症状を診断することができますの」

「ああ、それはなんとなく予想がつく」

「だから王城で病気に苦しんでいる人の診断をお願いされたのですけれど……いくらわたくしがビタミン不足だと主張しても、あの無能神官共ときたら、口を開けば瀉血しゃけつ、瀉血、やれ悪い血を出さねばならない、と。呆れ果ててものが言えませんでしたわ。挙げ句の果てに『瀉血をしないやぶ医者は医者に非ず』とか言われて、結局追放されてしまいましたの」

「それは……災難だったな……」

「でもこうして沖田様に拾ってもらえたので結果オーライですわ!」

「そうか」


 口調はかなり癖が強いが、人格面はだいぶ真っ当そうだな。よかったよかった。もう様付けを隠さなくなってきた佐渡ヶ島さんだが、そこはもう気にするまい。

 それにしても佐渡ヶ島か……。どこかで聞いたことがあるような……。


「失礼、佐渡ヶ島さんは――――」

「姫乃で結構ですわ」

「わかった。姫乃は、どこかで俺と会ったことはないか? 名前に聞き覚えがあるんだが、いまいちパッと思い出せない」


 すると姫乃は銀髪縦ロール(この時代にこの髪型とは! 絶滅危惧種である!)をくるくると弄りながら、あっけらかんと言ってのけた。


「異世界に飛ばされる前ですけれど、町外れに佐渡ヶ島医院という病院があったことを覚えておいでです? わたくし、あそこの跡取り娘ですの」

「あー、なるほど」


 佐渡ヶ島医院なら、幼い頃から何度も世話になっている。なるほど、あそこの娘さんだったのか。


「となると、将来は医学部を目指していたのか」

「まあ、そうなりますわね」


 だが実際にはこうして異世界なんぞに召喚されてしまっているわけで。将来的に、後継者不在による医院の閉鎖が現実的なものになってしまったわけだ。つくづくルシオン王国は碌なことをしないな。


「でも大丈夫ですわ。医学部に入るためにしていた勉強も、進次様のお役に立てるなら無駄ではなかったと思いますの」

「それなら良かった。まあ頼りにしているぞ」

「ええ!」


 ちゃっかり沖田から進次呼びに変わっていたり、俺を様付けしてきたりとよくわからない点はいくつかあるが……まあ姫乃はちゃんと優秀そうな人間だな。

 次は田原さんだが……。


「あ! ウチは姫乃ちゃんのとこで働いてる看護師の娘です! 将来は看護系の大学に行って、姫乃ちゃんをそばで支えたかったんですけど……姫乃ちゃんが沖田さんの下につくなら、ウチも喜んでお手伝いしますよ!」

「なるほど、だから同じく医療系だったんだな。……ちなみに『恩寵』の詳しい効果と、追放された理由を訊いても?」

「もちろんいいっすよ。ウチの【生体恒常性ホメオスタシス】は、文字通り対象となる人間のホメオスタシスを正常に保つ効果があります。だから体調を崩したりとか内臓とか免疫系の疾患に罹っても、初期のうちなら割と簡単に治せちゃうんです」

「それは……なんというか、破茶滅茶にチートじゃないか? なんで追放されたんだ?」

「単純に『ホメオスタシス』の意味がわからなかったんじゃないすか?」

「……まあ、そうだろうなぁ。しかしあれだな、田原さんの『恩寵』は、姫乃の【診断】と組み合わせるとほとんど最強に近いな」

「ウチも誉でいいですよ」

「わかった。じゃあ誉もよろしく頼む」

「任せてください!」


 医療系の二人が仲間になったのは非常に大きい。二人には是非、沖田平野の住人の健康管理をお願いするとしよう。差し当たって午後にでも病院施設を建てるとするかな。


「あ、そうだ。紗智子先生の『恩寵』も訊いていいですか?」

「あ、はい。もちろんいいですよ。私の『恩寵』は【教育者】。自分の経験したことや学んだことを、身体に染み付いた感覚レベルで人に教授する能力です。なんだか日本にいた頃に目覚めたかった能力ですね……」

「つっよ」


 横で聞いていた柚希乃が割と本気で驚いている。もちろん俺も超驚きだ。

 これ、たとえばアイシャが紗智子先生に乗り物の操縦方法とかをみっちりマンツーマンで叩き込んだら、あとは先生が他の人間に【教育者】を発動するだけで即席一流軍隊の完成ってことになるよな?

 指導教官としてほとんど完成系に近いのではなかろうか。


「紗智子先生には、こっちでも先生の仕事をお願いすることになると思います」

「わかりました。一応は本職ですし、力になれると思います」


 しかしなんというか、これだけ優秀な人達をことごとく追放したルシオン王国のダメダメっぷりが際立っているな。よくそれで国家が維持できるな……いや、だから今こうして滅亡の危機に瀕しているのか。ざまぁ。


「で、今回こうして一八人もの同胞を探し当てることに成功した一番の功労者が……君か」

「ぼ、僕が功労者なんて、そんな。先生が凄かったんだよ」


 身長はかなり低めだ。それこそほとんど柚希乃と変わらないくらいだろう。深い紺色の髪もショートカットで短めだ。そして青い刺繍の入った制服を着ていることから三年――――先輩だとわかる生徒。


「なあ、柚希乃。僕っ子って才能だとは思わないか?」

「うん。痛くない僕っ子ってすっごく希少だと思う。これは間違いなく才能だよ」


 しかもカタカナ発音じゃなくて、漢字発音の「っ子」だからな。もうなんというか色々ありがとうございます。


「名前を伺っても?」

「あ、えと、僕は神田かんだ百合ゆり。【転送】っていう『恩寵』を持ってるんだ」


 そう、この【転送】とやらが今回の鍵となる『恩寵』なのだ。


「【転送】はそんなにたいした能力じゃないよ。転送できる質量は限りなく小さいし、質量が増えれば増えるほど転送できる距離も短くなるし……。紗智子先生の使い方が上手かったんだ」

「百合先輩。使い方次第で化ける能力ってのは、古今東西色々な漫画や小説において、ダークホースになりうるんだよ」


 今回、紗智子先生が編み出した【転送】の活用方法。それを応用すれば……もしかしたら、が実行に移せるかもしれない。


 オドオドして紗智子先生のスーツの裾をつまんでいる(可愛い)百合先輩を見つめながら、俺は内心でニヤリと笑みを浮かべていた。




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