第35話 順調に都市開発は進む

 『マギア・リバース・システム』を開発してから一週間が過ぎた。あれから順調に開拓は進み、沖田平野の景色はすっかり様変わりしていた。


「やあやあ、今日も精が出るねぇ!」


 そう言って肩をバシバシと叩いてくるのは、俺の腐れ縁にして相棒の叶森かなもり柚希乃ゆきのだ。彼女は今日も対物レールガンを背負って巨大ミミズタンパク源狩りに勤しむようである。


「こうやって目に見えて開発が進むと、やる気も出るよな」


 あれから調査の結果、旧河道の地下には豊富な水脈が存在していることが判明した。発見した綾とアイシャには惜しみない賞賛と感謝を送り、湖と地下水脈は彼女達の名前にちなんでそれぞれ「新堂湖」、「大島川」と命名することにした。

 水資源が充分以上に確保できたので、旧河道付近には垂直農業用の窓無しビルを複数棟ほど建設済みだ。MP不足問題も解消できたので、軟弱地盤の改良工事も含めてかなりの短期間で工事は完了した。アイシャの重機操作技術には随分と舌を巻いたものだ。

 その甲斐もあって、現在は太陽光発電と風力発電で賄った電気を使って、無人での野菜や穀物の栽培に取り掛かっているところだ。たまに様子を見に行くことはあるが、家畜を飼育するのと違って基本的に放置でいいので随分と楽である。


 次に行ったことは巨大ミミズ対策だ。どうやらこの辺りにはミミズ達がかなりの数生息しているようで、一日に一、二匹は地中から岩盤を突き破ってコンニチハする場面に出くわしていた。

 どうやら向こう側からも地上にいる俺達のことが感知できるらしく(震動とかで知覚してるんだろうか? いまいち生態は謎だ)、人間エサを求めて頻繁に襲来するのだ。

 そこで俺は居住区画の地下に鋼鉄の仕切りを設けて、これを板状に敷き詰めることにした。防錆効果のあるステンレス製なので、腐食対策もばっちりだ。更に加えて地表を分厚いコンクリートとアスファルトで舗装してある。これを突き破るのは地中貫通爆弾でもない限りはかなり難しいだろう。

 現に、巨大ミミズ対策を施した区画には一切奴らが出没しなくなったので、効果のほどは充分なようだ。


 変わったことはまだある。この沖田平野は乾燥地帯で植物がほとんど生えていないためか、野生動物に関しては基本的に肉食獣がかなりの割合を占めているらしい。なんと脅威になるのは巨大ミミズだけではなく、空からもハゲタカのような魔物が襲い掛かってくることが判明した。

 地震という前兆を伴うミミズはまだなんとかなったが、流石に音もなくいきなり空から急降下爆撃をかましてくる奴らを四六時中警戒するのは難しかった。

 なので、そこは科学の力でゴリ押すことにした。具体的には【SF】でレーダー探知機と、それに連動する対空機関砲を開発した。おかげで叶森台地上空を飛ぶハゲタカ共は一羽残らず撃墜される非業の運命を辿ることになった。南無三。焼き鳥美味しかったです。


 そんなこんなで衣食住のすべてにおいてある程度の余裕が生まれた俺達は、ようやく一息つけるようになっていたのだった。

 日中は農業や狩猟に勤しみ、適度に休憩を取りつつ各自の『恩寵グレース』を鍛える毎日。おかげで俺達の『恩寵』は初期に比べてかなり強力なものに成長していた。


「柚希乃。巨大ミミズの養殖の件は、なんとかなりそうか?」

「うん。多分いける気がする。野生のやつらみたいに大きくなっちゃったら流石に難しいけど、月齢が若い個体なら暴れる力もそんなに大きくないし、鉄製の檻でも飼育できそうだよ」

「そうか。それは朗報だな」


 俺は、柚希乃に貴重なタンパク源である巨大ミミズの養殖を頼んでいた。

 というのも、この前倒した個体がどうも繁殖期のメスだったらしく、体内から産む直前の卵がたくさん(気持ち悪かった)出てきたのだ。

 試しに頑丈な檻の中(もちろん地中は鋼鉄の板で覆われているから、穴を掘っての脱出なんて不可能だ)に入れて放置していたら、なんと勝手に孵化したのだ。

 とりあえず適当に穀物やら野菜やら同族ミミズの肉の切れ端やらを与えてみたところ、すべてのエサをもりもりと完食して何の問題もなくすくすくと成長しやがるミミズベイビー達である。ほんの一週間ほどで一メートル弱のサイズに成長したのであった。


「繁殖させられるかはまだもうちょっと飼育してみないとわからないけど、なんかこのくらいイージーだったら案外簡単に成功しちゃうかもだね」

「培養肉生成マシンを発明した過去の自分を全力で褒めてやりたい気分だ」


 あれがなかったら今頃俺達は野垂れ死んでいたか、あるいは泣きながらミミズ肉にそのまま食らいついていたに違いない。


「さて、そろそろ今日はおしまいにしよっか」

「そうだな。もう三時間も働いてしまった」

「バイトじゃないんだから」


 日本にいた頃はよく長時間労働や過労死なんかが社会問題になっていたが、こちらの世界に来てからというものの、一日の労働時間が数時間もあれば長いほうとかいう超絶ホワイトな生活環境に変化している俺達である。

 桜山高校は進学校ということもあって、授業時間が週三六時間とかあったからな。酷い時には三八時間の週もあったくらいだ。模試で日曜が潰れた日には、まるまる三週間無休なんてこともあった。休日と青春を返せと言いたいね。

 まあそんな高校を選んだのは俺達自身なので、文句は言えないんだけどな。まったく、異世界に飛ばされて良かったのか悪かったのかわからなくなってしまいそうだ。


「帰ってゴロゴロしようぜい!」

「そうするか。新しいSF理論も考えたいしな」

「今度は何作るの?」

「都市の全エネルギーを太陽光と風力で賄うのはいずれ限界が来そうだし、それの対策も兼ねて核融合発電とかやってみたいよな」

「流石にまだちょっと難しいんじゃない?」

「さあな。やってみなきゃわからんぞ」


 まだまだ太陽は高いが、そんな他愛もない会話をしながら俺達は帰路に就く。こういう落ち着いた時間が持てるようになって本当に良かった。

 ――――こんな時間がこれからもずっと続けばいいんだけどな。

 隣を歩く柚希乃の明るく眩しい笑顔を眺めながら、そんなことを思う俺であった。





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