第34話 マギア・リバース・システム

「……というわけで、勝手に本日の予定を変更してしまって申し訳ないんだが、それを補って余りある成果が得られたので許してほしい」


 正午。昼食のタイミングで俺は皆に、空気清浄機にもエアコンにも見える一台の機械を見せていた。


「進次、まさかとは思うけどこれは?」

「そのまさかだ。こいつは『マギア・リバース・システム』。簡単に言えば、MP回復装置だ」

「作っちゃったの!?」

「ああ。なんかできた」

「なんかできた、じゃないよ。もうなんか何でもありだね。流石は私の見込んだ進次だよ」


 驚き呆れつつ褒めるという器用なことをしてくる柚希乃。どうやったらその表情を作れるのか、むしろこっちが訊きたいくらいである。


「えっと、つまり進次センパイがチートから超チートになったってことでいーの?」

「まあ、そういうことだな」

「これで生活がもっと楽で安全になるんですね。良いことじゃないですか」


 唯一、綾だけがすんなりと受け容れてくれた。諦めているともいう。


「ちなみに原理を訊いてもいいですか?」

「ああ。ざっとまとめると、この世界には地球に存在しない元素が一つ混じっている。この機械は、その元素を外界から大量に取り込んで濃縮、空気中に散布することで、呼吸によるMPの自然回復を促すんだよ」

「地球とは異なる元素……」

「厳密には元素じゃなくて、元素を構成する素粒子と言ったほうが正しいかもしれない。――――電子ってあっただろ、ほら中学理科でも習う」

「ありますね」

「『恩寵グレース』然り、巨大ミミズ然り。この世界に満ちる、物理法則すらも捻じ曲げる謎のエネルギーの正体は、その電子の亜種なんじゃないかと思ってな。原子でいう同位体みたいなもんだ」

「? はい」


 なんかもう既に理解が追いついてなさそうな綾だが、別に理解させるのが目的ではないので構わず話を進める俺。


「まあ仮定の話だから、実際にそうだと判明したわけじゃない。だが、そこは俺が納得すれば問題なく発動する便利な『恩寵チート』の【SF】だ。MPの素になり、魔法的振る舞いをする素粒子……これを『魔素』と命名するが、俺がこの魔素の正体を電子の亜種だと定義することによって俺の脳内宇宙の設定に矛盾が生じなければ、【SF】はちゃんと仕事をしてくれる。結果、こうやってMPを回復してくれる装置が完成したというわけだ」

「? ? へー。なんか凄いね?」


 ああ……、アイシャがなんか可哀想な感じになっている……。


「電子を大量に浴びて、害とかはないんですか?」


 至極真っ当な質問をしてくる綾。不安な気持ちもわかるので、俺はその疑問に丁寧に答える。


「別にこの『マギア・リバース・システム』は魔素そのものを放射するわけじゃない。外界から取り込んだ魔素を大気中の元素に結びつけて、それを空気清浄機のように散布するだけだ。俺達は魔素を豊富に含んだ空気を吸ったり吐いたりするだけだから、身体に悪影響はないぞ」

「それなら安心ですね」


 納得してくれたようで何よりである。と、そこで腕組みして考え事をしていた柚希乃が顔を上げて言った。


「もしかしたら本当に電子の亜種なのかもしれないね」

「柚希乃?」


 先ほどの俺の脳内設定に柚希乃もまた同意してくれるようだ。俺ほど重度ではないが、彼女もまたSFオタクなのでこの手の話に対する理解は早い。


「MPを回復させる謎粒子の魔素は、食べ物だけじゃなくて水にも空気にも含まれてるんだよね? だったら何か特定の元素じゃなくて、全部の元素に必ず含まれてる電子の可能性が一番高いと私も思うんだ」

「柚希乃もそう思うか。まあ、とはいってもあくまで俺の脳内設定というか仮定にすぎないから、そもそも本当に魔素なる素粒子が存在してるとは限らないんだけどな」


 数学におけるゼロや虚数の概念みたいなもんだ。自然界において観測することはできないが、仮にるものと定義してその先の議論を進める。そういう高度に抽象的な思考ができるから、人類はここまで科学を発展させられたんだろう。


「とまあそういうわけなんで、今日から【SF】が使い放題です。やったね」

「「やった〜!」」

「やりましたね」


 さあ、そうと決まれば早速、『マギア・リバース・システム こいつ 』をフル活用して都市開発といこうじゃないか。




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