第25話 旅はまだもう少し

 ――――ズドンッ ズドンッ!

 ――――ドパパパパッ……

 ――――ズガァアアンッ ズガァンッ!


「横から来てるぞ!」

「任せてっ!」


 ――――ズガンッッッ


「ギャンッ」


 天気の良い昼下がり。穏やかな天気とは裏腹に、俺達は大量の獣に囲まれていた。


 ――――ドルルルルルッ


 エンジンを全快に吹かしているバイクの音が大自然の中に響き渡る。六〇キロ以上は出ているのに、狼型の獣の群れはぴったりとついてきている。


「こうも数が多いと厄介だなっ」

「ひぃ〜ん!」


 ――――ドパパッ ドパパパパッ


 情けない悲鳴を上げながら連続した射撃音を轟かせているのは、アイシャの運転するバイクの後部座席に乗っている綾だ。彼女の手には宝和工業製の二〇式五.五六ミリ小銃が握られている。

 こちらの世界に飛ばされる前に、自衛隊に制式採用されたばかりの最新鋭自動小銃だ。防錆性と排水性能が高いので、手入れもかなり楽である。柚希乃の実家である叶森模型店でも電動のモデルガンを入荷していたのは記憶に新しい。それを基に、二人で細部の構造を思い出しながら【SF】で再現したのだ。


「こっちに来ないでください〜!」


 ――――ドパパパパッ


 綾は日本にいた頃は完全なインドア派だったらしく(まあ見た目からも完全に予想通りではあったが)、あまり武器の扱いが得意ではなかった。拳銃はあまり当たらないし、狙撃銃なんてもっての外だ。だから下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる戦法で、弾をバラくだけでいい自動小銃を持たせてみた。

 するとこれが案外ハマったらしく、柚希乃、俺に続いてなかなかの好戦績を残してくれている彼女である。最近ではようやく銃の扱いにも慣れてきたようで、無駄撃ちの回数を随分と減らしていた。

 ちなみにアイシャだが、彼女はもっぱら運転に集中している。乗り物の操縦に関しては天下一の技量を有する彼女だが、銃火器に関しては一般人らしくなんの適性もなかったようだ。なのでアイシャには運転に集中してもらって、その分操縦テクニックで敵を翻弄してもらうことにした。


「あと八匹だよ、進次!」

「よし、振り切るぞ! 柚希乃、一匹ずつ確実に仕留めてくれ!」

「よっしゃー!」


 ――――ドルルルルルルッ……

 ――――ドパァンッ! ドパァァンッッ!


 アイシャに目配せして一気に加速した俺達は、狼の群れから距離を取る。数が減って体力も限界に近づいてきた獲物を狙うのは、天才スナイパーの柚希乃にとっては造作もないことだ。一匹一匹、確実に敵を仕留めていく。


「ラスト一匹!」


 ――――ッッパァアアン!


 最後の一匹が崩れ落ちた。ようやく緊張感から解放される俺達。


「……ふぅ、負ける気はしなくても、やっぱり緊張はするもんだな」

「命の奪い合いだもん。そりゃ緊張するよ」


 バイクを停めて片足を地面に突く俺に、もたれかかってくる柚希乃。肩で息をする度に、彼女の体温がこちらに伝わってくる。


「お疲れ様だ」

「進次もね」


 俺も柚希乃ほどではないが、それなりの数の狼を倒している。綾も戦力としてかなり成長してきた。我らが沖田一味の戦力拡充具合は、なかなかに順調だ。


「さて、一息ついたらもう少し進もうか」

「そうだね〜。今日中に国境は越えたいよね」


 硝煙と土埃を手で払いながら、そんなふうに笑い合う。邪魔者のいなくなった周囲の草原は、穏やかな微風そよかぜに揺られていた。


     ✳︎


 後輩達と合流してから一週間が過ぎた。あれからかなりの距離を移動して、俺達は無事にルシオン王国を脱し、隣の国へと突入していた。

 途中、ルシオン王国を抜ける前に立ち寄った街で大量の野菜や穀物、調味料などを調達し、最初に渡された手切金三〇万円も既に使い果たしている。他国でルシオン王国の通貨が使える保証はなかったので、妥当な選択だろう。


「よし、今日はここまでにしよう」

「お尻いた〜い」


 今日は割と長時間走っていたから、腰にだいぶ疲れが溜まっている。早めに食事を済ませて、あとはゆっくり休むとしよう。


「綾、コンテナハウスを出してくれ」

「わかりました」


 綾が【蔵屋敷】から大型コンテナの簡易住宅を取り出す。相変わらず摩訶不思議な能力だ。いったいどこに仕舞われているんだろうか。

 まあそんなこと言ったら俺の【SF】だって同じくらい意味不明なんだが。質量保存の法則どこに行ったよ。返事してくれ。

 柚希乃の【銃士ガンナー】に関しちゃ因果律の操作にすら片足を突っ込んでいるっぽいし、もう何でもアリである。


「MPもだいぶ余ってるし、風呂から上がったら新アイテムの開発でもしようかな」

「今度は何を作るの?」

「いい加減、あてのない旅にも飽きてきたところだ。そろそろ新天地の場所もはっきりと定めたいから、ドローンでも作ろうかと思っている」

「偵察機かな! 楽しみだね。爆弾くっつけたらルシアン王国を空爆し放題じゃん」

「物騒なことを言うなよ。あそこにはまだ桜山高校の生徒達がたくさん残ってるんだぞ」

「わかってるよー。できないのと、できるけどやらないのは違うって話だよ」

「ならいいんだ」


 こう見えて割と現実主義なところのある柚希乃だ。シビアな選択も躊躇なく候補に入れるあたり、案外政治家や軍人向きなのかもしれない。


「お肉〜! 今晩はカレーだっ」


 ただまあ、夕食のメニューに思いを馳せて能天気に鼻歌を歌うところとかは年相応の女の子って感じもする。

 今日は柚希乃の手料理か。美味しいので楽しみだ。


「あっ、ご飯作ってるから先にシャワー浴びてきちゃっていいよ」

「わかった。アイシャと綾は?」

「後でいいよー」

「お先にどうぞ」

「すまんな。じゃ、お先」


 新天地への旅はまだもう少しだけ続きそうだが、こういうのも意外と悪くないな、と感じる俺であった。






――――――――――――――――――――――――

[あとがき]

 バイクの名前や銃火器の製造社名がちょっとずつ異なっているのは、わざとです。誤字ではありませんのでよろしくお願いします。






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