第20話 花が咲きます 大切にしましょう

 バイクを片手運転しながら拳銃ガバメントを構える俺。叶森のような命中補正こそ付いていないが、つい今しがた「【SF】で創造したものなら操作性が向上する」という発見をしたばかりだ。必中とまではいかずとも、特殊部隊の軍人ばりに上手く扱えることは間違いない。


 ――――ズドンッ ズドンッ


 大口径.四五ACP弾で次々と狼を撃ち抜く俺。相手が人間よりも大きな獣であっても、殺傷力ストッピング・パワーにまったく不足はないようだ。


「ギャウンッ」

「ガルォッ……」


 悲痛な断末魔を上げて狼共は地に伏す。気が付けばもう二匹しか残っていない。


「えいっ」


 ――――ズガァアンッ ズガァァアアンッッ


 立て続けに叶森が対物レールガンを放ち、二匹の狼を吹き飛ばした。辺りに硝煙が立ち込め、プラズマの光が漂っている。すべての狼が倒されたことで、静寂が訪れる。


「た、助かったの……?」

「みたい、だけど……」


 事態をあまり飲み込めていなさそうな二人が、不安そうに辺りを見回している。そんな彼女らを安心させるために俺は声を掛けた。


「もう大丈夫だ。狼はすべて倒した」


 確認した限りでは、全部で狼は六匹。叶森が撃ち漏らすとも思えないので、これで終わった筈だ。


「少なくとも周囲数百メートルには大きな獣はいないみたいだよ」

「……だそうだ」


 日本にいた時にはあまり気にならなかったが……何度体験しても叶森の目の良さには驚かされるな。そういえば叶森の奴、昔から席替えの時に目が悪い人間が後ろになった時、積極的に交換してあげていたな。てっきり自分が後ろの席になりたいからだとばかり思っていたが、純粋に善意だった可能性が…………いや、無いな。


「進次、なんか変なこと考えてる?」

「いや別に」


 妙に鋭い奴だ。叶森は全体的に野生的感覚が強いのかもしれない。


「あ、あの」

「うん?」


 つい今しがた助けたばかりの二人組のうち、溌溂そうなほう……端的に言えばギャルっぽいほうの女子生徒が話しかけてくる。


「あ、ありがと。死ぬかと思ったから、まじで助かったよ」

「あ、ありがとうございます」


 ギャルの子がお礼を言うと、もう一人の真面目で奥手そうな三つ編みの眼鏡っ子も頭を下げてきた。


「いや……まあこちらも命懸けだったし気にするなとは言わないが、とにかく間に合って良かった。怪我はないか?」


 俺達は同じ日本人なら無条件で助けるというわけではない。助けるメリットが大きいと判断したから助けるだけだ。不必要な危険をこうむるつもりは欠片もない以上、命を安売りすることは絶対にしない。

 ただまあ、それはそれとして救える命を救うことができたのは素直に喜ばしいことである。目の前で死なれても寝覚めが悪いからな。


「うん、一応どこも怪我はしてないよ」

「わたしも無事です」

「良かった〜! あ、私、二年の叶森かなもり柚希乃ゆきのです! こっちは同じクラスの沖田おきた進次しんじ


 某国民的魔女っ子映画のヒロインのような自己紹介をする叶森。オタク気質のあるこいつのことだ。多分わかっててあえてやっている。


「あたしは一年の大島おおしま亜衣紗アイシャ、です」

「わたしも同じ一年の新堂しんどうあやです。あの、本当に助けてくれてありがとうございます」


 どうやら二人は後輩のようだ。道理で見覚えがないと思った。まあ仮に同級生だったとしても、八割以上は誰が誰だかわからんけどな。クラスメイトなら…………まあ、多分半分くらいなら顔と名前が一致するとは思う。自信はないが。


「大島さんと新堂さんか。よろしく」

「よろしく〜」

「よろしく、お願いします」

「よろしくお願いします」


 こちらが先輩とわかったからか、丁寧に挨拶を返してくれる二人。ただ、大島さんに関しては若干ぎこちない気がする。


「あの、大島さん」

「え? 何……ですか?」

「敬語が苦手なら使わなくてもいいぞ」

「いいの?」

「海外育ちなんだろう。学年は気にせず、素のままで話してくれて構わない」

「それは助かるけど……なんで海外育ちってわかったの?」

「まあ、見た目?」


 ギャル系美少女の大島さんは、見事な金髪と碧眼をお持ちであった。しかも名前が横文字アイシャだ。これで海外の血が入っていないと言われたら詐欺だろう。


「あたし、よく染めてるって勘違いされるんだけど……初見でハーフって当ててきたの割と珍しいほうだよ」

「まあ……気を悪くしたら申し訳ないが、確かに顔立ちは和風だからな」

「それよく言われる〜」


 大島さんは、欧米人のように掘りが深い顔つきではない。もちろん日本人離れした美少女ではあるが、どちらかといえば日本風の美少女だ。


「綾ちゃんは大和撫子って感じだね」


 そう言って新堂さんに話しかける叶森。大島さんとは違って、新堂さんはあまり自己主張が強くないようだ。別に大島さんも強いってほどではないが、コミュ力は高そうだからな。いわゆる陽キャラってやつだ。


「そ、そんな。私なんかが大和撫子だなんて、畏れ多いです……」


 新堂さんは、三つ編みに眼鏡の「ザ・いいんちょ」な出で立ちの純和風美少女だ。丈の長いセーラー服がたいへんよくお似合いのお上品な子である。大島さんが陽の者だとしたら、新堂さんは陰の者だな。


「えー! 委員長は可愛いと思うけどな、あたし」

「アイシャさんまで、そんな恥ずかしいこと言わないでくださいっ」


 なんと、マジで委員長だったのか。それはそうと、怒ったような口ぶりの新堂さんだが、その表情は満更でもなさそうだ。照れ隠しなのがバレバレである。大島さんに関しても、「可愛い」と言った時の声色が割とガチトーンで冗談で言っている風でもない。

 ……ふむ、ギャルにいいんちょの組合せカップリングか。これは――――滾るな。


「進次?」

「何も変なことは考えてないぞ」


 ええ、決して不埒なことは考えていませんとも。なにしろ昔から「間に挟まる男は害悪」ってそれ一番言われているんだからな!!




――――――――――――――――――――――――――

[あとがき]

 この作品にはハーレムタグがついておりません。そのため、後輩二人はくっつくことはありません。

 賢い皆様ならもうお分かりですね。花が咲きます。大切にしましょう。

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