249 『インバースプロポーション』

 飾られていた彫刻作品が動いた。

 これがアンデッドだったのである。

 その数は二体。


 ――さて、操作性はいかほどか。


 アンデッドを操る《屍術歌劇アンデッドオペラ》は、同時に三体までは動かせるらしい。カルミネッロと二体がそれである。

 マルチャーノの側にいる兵士のアンデッドは待機中だが、それも同時に動かすことくらいはできそうだ。

 おそらく、四体以上でも可能。

 十体以上でも動かせるかもしれない。サツキが把握している隠れたアンデッド数体は、同時に稼動させられる範囲内にある。

 その数体もアンデッドとわかるものだけを数えたに過ぎず、彫刻作品が動いたように、作品に擬態させたアンデッドもあるかもしれない。そうなれば二十体以上いておかしくない。

 だが、問題はその操作性だ。


 ――操作性が低いものを無数に動かせても脅威にはならない。ただ、すでにカルミネッロさんのコントロールはかなり緻密にできるものと思われるし、この場合、同時に動かす数が多くなればなるほど操作性に難が出てくるんじゃないだろうか。


 とはいえ、これも希望的観測。


 ――数によらず、優れた操作性を持たせられたら……手がつけられないな。だが、人間の脳はそこまで複雑なことを並列してできない。


 あのフウサイでさえ影分身を大量に生み出しても、すべての個体に優れた操作性を与えられない。

 むしろ、忍者の影分身はそれぞれの個体は視覚や聴覚などの五感も共有するが、頭脳は一つしかないため、それぞれの個体を手足の指のように動かすことになる。

 影分身とはそうしたものなのだが、アンデッドを操る《屍術歌劇アンデッドオペラ》の《重唱アンサンブル》では五感の共有はないと思われるし、自分の分身とは違ってそれぞれが異なる性質を持つアンデッドを同時に操ることになる。

 糸をつけた人形を動かすような、そんな複雑さがあるともいえる。

 つまり、一度に操れる数と各個体の操作性は反比例の関係にあると考えるのがよさそうだった。


「来るぜ、サツキ」

「うむ」


 彫刻作品を模したアンデッドは人間のような動きでサツキとミナトを目がけて駆けてくる。

 ただ、少しだけ動きは悪いだろうか。


「油断禁物。彼らは魔法を使うはずだから」

「だな」


 ミナトに言われて、魔法への警戒も強める。

 さっき、ミナトを攻撃した兵士のアンデッドはあえて魔法を使わなかった。

 一瞬の攻防だったからか、あるいはミナトの撤退が神速を極め隙がなかったからか。

 いずれにしても、そちらの手の内も見せてもらっていない。

 そして、カルミネッロによる空間干渉。

 二人のアンデッドの魔法がいつ発動してくるかもわからない。


 ――カルミネッロさん、兵士のアンデッド、彫刻のアンデッド二体。その中でだれがいつなにをしてくるのか。神経を使う戦いになるな。


 また、忘れちゃいけないのが。

 マルチャーノ。

 この人の右手には、銃が握られている。

 アンデッド二体との距離が縮まってきたところで。

 発砲。

 これをミナトが一文字斬り。

 銃弾は真っ二つになった。

 それからサツキにぐいっと背中をくっつけて、


「いやあ、あの人の銃撃もあったんだね。忘れてたよ」


 と言ってサツキの身体の向きを変えさせる。

 ミナトの目の前にはアンデッドが二体。


「忘れてたのか。十人くらいはいつどこから攻撃してくるかわからないんだぞ」

「やっぱりそれくらいは考えないとかァ」


 彫刻作品のアンデッドは、一人は古代人の魔法戦士らしき鎧を身につけて剣を振るい、ミナトの剣がこれを受けて払う。

 もう一人のアンデッドは、古代マノーラの哲学者らしき人で、本を手に持っていた。

 これら二人を、ミナトは一人でみようとしている。

 逆に。

 サツキの目にはマルチャーノが見える。


「こっちは見ておく」


 と。

 続くマルチャーノの銃弾を斬ってそう言った。

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