235 『セカンドヘルパー』
場面は戻って。
ナズナを銃殺しようとしていたマフィアが、倒れたフリをして不意打ちをしかけたところである。
「残念だったな」
妙にハッキリと、ナズナの耳にはその声が聞こえた。
――だめ、かも……!
リラが必死にナズナに飛びかかり守ろうとしてくれているが、トリガーは引かれてしまっていた。
「うっ」
ぎゅっと、ナズナが目を閉じる。
そこに、リラが抱きついてきた。
抱きつかれた感覚がある。
けれども銃で撃たれた感覚はなかった。
音と風圧だけが顔の横をすり抜けていった。
「え?」
「大丈夫? ナズナちゃん」
リラに聞かれて、ナズナはうなずく。
「うん。でも、なんで?」
「《シグナルチャック》。ツキヒの魔法が間に合ったからだよ」
と。
そう言ったのは、王子様のように煌びやかな少年だった。
『コロッセオの王子様』
昨日の『ゴールデンバディーズ杯』ではサツキとミナトを相手に決勝で戦った、柔術使いの魔法戦士。
リョウメイの管理する
そして、《シグナルチャック》を使ったのがヒヨクの相方。
『
同じく晴和王国出身。
柔術のヒヨクに対して、ツキヒは剣士である。
晴和刀の中でも長い柄が特徴の長巻は、良業物の『
二人はサツキとミナトと同じ十三歳。
歌劇団は晴和王国の中でも四つの都市で展開されているアイドルのようなもので、毎晩劇場で歌って踊って公演している。
そんな歌劇団の次期メンバーである二人は顔立ちも整っており、美男子ということでコロッセオでも人気を博しているコンビである。
なにより、コロッセオで人気を得るために必須の実力は折り紙付き。
それは昨日の試合を見ていた参番隊の三人にはわかりきっていた。
すなわち。
先程、スモモとアシュリーの前に現れた二人というのがヒヨクとツキヒなのである。
「え! ヒヨクさん、ツキヒさん! どうしてここに……!?」
リラが驚嘆して問うと。
ニコッと、ヒヨクはキラキラした笑顔で答えた。
「リョウメイさんに言われてね。ボクたちは加勢に来たんだ」
「まあ、ここはオレとヒヨクが出る幕じゃないと思ってたんだけどさ。卑怯な手を使う人もいたから」
それから、またツキヒは何人かと指差していく。
「《シグナルチャック》。みんな目を見えなくした。音も聞こえない。今のうちに始末しちゃいなよ。オレとヒヨクは上に行くから」
「ありがとうございます」
代表してリラがお礼を述べた。
ふと、リラは思い出す。
――そうだ。そうだった。ここにはフウサイさんもいて、いざとなったら守ってくれるってサツキさんも言ってた。
それをすっかり失念していた。
――でもあえて今手を出さなかったのは、ヒヨクさんとツキヒさんがいたから。二人に気づかれないため。そして、二人ならナズナちゃんのピンチも助けられると計算したから、かな。
サツキは、フウサイがいるから思い切りやるようにとリラに告げた。
だからのびのびとやってみたのだが、いざナズナがピンチになるとそれも忘れていた。
もしフウサイがいるのならナズナへの発砲そのものが防がれていたとも考えられる。
そうならなかったのは、つまりフウサイの介入がなかったその理由は、ヒヨクとツキヒがこの場にいたからだろう。
影の者であるフウサイの存在は、彼らに知られてはならない。存在がそもそも知られていない、ということが影の仕事をやりやすくするのだ。
また、フウサイから見てあの二人はナズナのピンチを救うだけの腕がある、と評価され信頼されていたからこそ、フウサイは手を出さなかったのだと思われる。
と。
リラはそこまで理解した。
「あとはわたくしたち参番隊でやってみせます。ありがとうございました」
「それじゃあ、頑張ってね。参番隊のみんな」
ヒヨクが手を振って、二人は先へ進んだ。
まず、ヒヨクが魔力の球体を創り出し、それを足場にして空中を歩くのである。
試合でも見せた《
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