231 『リライリラ』
リラの準備にはあと三秒ほどが必要になる。
だが、リラが二人に告げた十秒は少し余裕を持たせた時間であり、あと五秒以上は必要だった。
チナミはあと五秒を稼ぐために、一気に敵を眠らせる《
相手の中にも洞察力に長けた者もいた。
「眠らせる砂か!?」
これに気づいた者が現れた。
「な、なんだと!?」
「た、確かにそうみたいだ!」
「おお、そうみたいだぜ!」
「条件は……そうか、砂が目に入った途端、みんな眠ってやがる!」
味方の目に砂が入ると、その人間は急激に眠たげに目をしばたたかせて眠ってしまっていた。
そこにも素早く気づいたらしい。
「おまえら! 砂が目に入らないようにしろ! 砂が来たら目を閉じろ!」
「おう!」
「第二陣の砂嵐に気をつけろよ!」
これを、チナミは冷静に観測する。
「思ったより早く気づいた」
「チナミちゃん……どうしよう」
慌ててチナミを見るナズナ。
「別に、これはこれでいい。目を閉じたらナズナも狙いやすいでしょ」
「あ。うん」
と、ナズナは小さく微笑む。
そして、いざ次の《
「来たぞ!」
「目を閉じろ!」
「へへ、こうしてりゃあ眠……にゃむにゃ……」
対策を講じて目を閉じるが、そこにはナズナの矢が飛んでいく。
「《
ついさっきも見たばかりのナズナの弓矢のことも忘れて、前線の数人が目を閉じて撃たれていく。それはとても滑稽だったが、一斉に味方がバタバタ眠っていくチナミの砂嵐を警戒するのは当然のことで、注意がそちらにしか向かなくなるのは仕方のないことだったかもしれない。
「矢と砂、どちらにも注意しろ! 加えて、小さい方は飛び道具のバリエーションも多岐に渡るぞ!」
眠り技を十分に警戒している者も多く、チナミとナズナによる牽制と敵の進軍がせめぎ合う。
こうしてチナミとナズナが時間を稼ぐ間にも、リラは準備を終えていた。
「ありがとう。ナズナちゃん、チナミちゃん」
「もう、だいじょうぶ、なんだね」
「それで、なにを」
ナズナとチナミが目をみはる。
敵がこちらまで来るには、ここからさらに三秒以上はかかるだろう。
この間に要塞を築ければいい。
しかし、チナミが見る限り、なにも準備ができているようには思えない。
いや、そうじゃない。
あった。
リラの右手には小槌が、左手には小さな物体が。
この小さな物体こそが、要塞である。
ミニチュアの城。
和風のお城だ。
「チナミちゃん、これを階段の前にセットしてくれる?」
「御意」
「ナズナちゃんはリラをそこまで運んで」
「うん」
チナミが軽い身のこなしで階段を飛び降り、階段の前にミニチュアの城をセットした。
ナズナはリラを抱えて空を飛び、その前まで連れてきた。
そして、リラが小槌を振る。
「《打出ノ小槌》さん、お願いします。おおきくなーれ、おおきくなーれっ」
すると、お城がぐんぐん大きくなってゆく。
手のひらに載るミニチュアサイズから、高さ十メートルを超えるちょっとした小城になってしまった。
城というより櫓といった赴きである。
この城の天守閣に、ナズナがリラを抱えて飛んで行き、チナミはくノ一よろしく鎌を投げてのぼっていった。
「良いお城」
チナミはちょっと楽しそうだった。戦場に建築が利用される意外な戦術がおもしろかったのだ。
「これは、メイルパルト王国のファラナベルでピラミッドを探索したとき、アルブレア王国騎士との戦いで使ったものだよ」
「ああ、そんな話、してたね」
参番隊でいろいろお話していたとき、そこでの戦いの話をしたことがあった。
三人でお菓子作りをしていたとき。
「サツキ様が考えてくれて、リラびっくりしちゃった」
「戦いの中に土木工事を組み込むなんて、予想外。さすがはサツキさん」
「ね。ふふ」
「ん? リラ、なんか嬉しいの?」
「えっと。あのね、リラは身体が弱かったから、あんまりなにかを頼まれることってなかったんだ。でも、サツキ様はこんなリラにも大事な仕事を与えてくれて、しかもそれが普通の戦いのイメージとは違うことだったから」
「頼られて嬉しかったと」
「う、うん。そうかも」
リラとチナミがそう話して、ナズナも、
「わかるよ、リラちゃん。わたしも、同じだから。サツキさんは、わたしにしか、できないこと、教えてくれて。頼ってくれるもん」
「そうだよね。よし、リラもサツキ様みたいな指揮ができる隊長を目指して頑張るよ」
「なんでも、言ってね」
「協力する」
ありがとう、とリラは二人を抱きしめた。
そんなことがあった。
チナミは天守閣からの眺めを見て。
またリラを見る。
――あのときの話からも、たぶんリラは頼られるのが好き。それはリラの境遇とかにも理由はあるだろうけど。だから、私も一つ、頼ってみようか。思いついたこともあるし。
そして言った。
「ねえ、リラ。試したいことがある」
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