226 『ラッシュサンクチュアリ』

 部隊の最後尾からサツキの声がして、クコは驚いて振り返った。


「サツキ様!?」

「戻ったのですね! おかえりなさい」


 リラもびっくりして振り返ったが、すぐに笑顔を浮かべた。

 ナズナも表情をやわらげる。


「よかった、です」

「しゃべってる暇はないでしょう? 準備ならできてるわよ」

「私もです」


 ヒナとチナミがそう言って、ミナトが敵の一人を斬って、


「みんな問題ないみたいだよ。サツキ」

「うむ」


 サツキがうなずく。

 先頭にいたオリンピオ騎士団長が顔だけ後ろに向ける。


「私がついていけるのもここまでのようだ。あとは手筈通り、我々が広場の敵を引き受ける」

「はい!」


 エルメーテが返事をして、オリンピオ騎士団長が止まるとエルメーテとスコットとブリュノとシンジも止まっていった。


「士衛組の諸君、あとは頼んだよ」

「頑張ってください」

「こちらの心配はいらん」

「応援してるよ」

「いってらっしゃい」


 四人が広場のほうへと向き直り、このままクコを先頭に横を走り抜ける。


「ありがとうございました」

「すみません、よろしくお願いします」

「が、がんばり、ます」

「ます」

「絶対に勝ってくるわ」


 クコ、リラ、ナズナ、チナミ、ヒナと答えていって。

 最後に、ミナトとサツキが言った。


「僕たち士衛組に任せてください」

「いってきます」


 それから、サツキが指示を出す。


「ミナトは先頭へ。チナミはやや下がってみんなのサポートを」

「承知」

「御意」


 サッと、《瞬間移動》で先頭に躍り出るミナト。

 チナミはトンと足を鳴らすようにステップを踏んで一歩遅らせ、後ろから二番目の位置まで来る。

 次いで、サツキは小声で、


「フウサイは変わらず、全員を見てくれ」

「御意」


 実は、姿こそ見せていなかったものの、忍者・フウサイはずっとサツキの側にいた。

 影の中に隠れられる忍術、《かげがくれじゅつ》でサツキに危険がないよう見守っていたのである。

 ただしジェラルド騎士団長との戦闘など、サツキを信頼してサツキの成長のためを思って手出ししない時もあった。

 玄内と同様、フウサイもあまり出過ぎないようにしているためだ。

 忍者は影の存在として、周囲には知られたくない。

 知られてしまうとやりにくくなる仕事もある。

 逆に、存在すらも知られていないからこそできる仕事もある。

 だから極力フウサイは表に出ないし、サツキも目立つことはさせなかった。

 しかしここからは士衛組だけで複数の敵を相手取る必要が出てくるため、この人数だけでは手が回らないこともあるだろう。

 フウサイに声をかけたのは、それが理由だった。

 できるだけ様子を見て、厳しい状況になったと判断できたら助けてもらいたい。

 その呼びかけなのである。


「いよいよ突入します!」


 クコがみんなに注意喚起する。

 そして、ミナトが扉を開けた。


「さあ、いきますぜ」


 かくして。

 扉が開かれた。

『聖域』ヴィアケルサス大聖堂の内部がうかがえる。

 広場からすでにここは『聖域』と呼ばれる区域だったが、内部は特にその色が強い。

 厳格、厳重、荘厳な大聖堂。

 西洋建築の美しさと宗教画の鮮やかさ。

 しかしそこには、武器を構えたサヴェッリ・ファミリーの手下たちが百人以上といた。

 広く、天井も高い、あまりに大きな空間だった。


「あたしが案内するわよ」


 ヒナが一歩進み出る。

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